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act.3君と星の世界へ<58>

「アオには……言わない、から」 双子に助けられたなんて葵には言ってやらない。それに、双子が介入してこなくても、自分できちんと彼等を追い払えていた。 手を上げなかったのは、葵に後々怒られることが目に見えているからギリギリまで我慢していただけ。余計なお節介以外の何物でもない。だからそう言えば、案外双子は気にする素振りもなく、言い返してくる。 「別にいいですよ。ああいうの見てるとムカムカするだけなんで」 「遠巻きに野次馬している奴らにも腹立つしね。貸し作ったなんて思ってないっすから。安心してください」 同じタイミングで机に頬杖をついた彼等は普段の生意気な顔つきではなく、どこか複雑な表情を浮かべていた。都古を助けた、というよりも、本当にああいう輩に対して気分を害したという言葉が二人の正直な気持ちのようだった。 「でも俺らのことは抜きにして、葵先輩に言ったほうがいいんじゃないですか?葵先輩あんな感じだけど一応役員で権力あるんだし、パパっと停学に出来るでしょ」 「あんな感じって、聖は一言多いんだよ、いつも」 「ぽわーってしてて可愛いって意味だよ。褒めてんの」 瓜二つだが、双子の性格は少しだけ異なるらしい。聖を小突く爽の顔は言葉の選び方が下手な兄に対してしかめられていた。 「言わない……慣れてる。だから、お前らも、言うな」 この学園に入学した時から、コネで入った都古への風当たりは強かった。それに、180近い身長まで成長した今は大分減ったものの、ああして下世話な欲の対象として絡まれる経験も何度もしてきた。 どうして都古がある時期を境に実家に帰らなくなったのか。そして葵以外のものへの執着を捨て去ったのか。その理由をどこからか知り、確信めいた誘いをしてくる輩もいる。 けれど今更そんなものに心を揺さぶられるほどヤワではないし、葵に助けを求めようとも思わない。都古が悪意の捌け口にされていると知れば、人一倍優しい葵がまるで自分が傷つけられたかのようにショックを受ける事も予測できるからだ。 「まぁ先輩がそう言うならいいっすけど」 「あいつらだけじゃなくて……なんかそういう事話してるの聞いたことあるから、気をつけたほうがいいと思いますよ」 どうやら双子は、学園内に流れている都古に関しての噂や、それに乗じた生徒たちの会話を耳にしたことがあるようだ。気まずそうに、けれど本気で都古を気遣うような視線を送ってくる二人に、驚かされた。 双子はてっきり自分のことを嫌いなのかと思っていたし、それが当たり前だと感じていたのだが、そうでもないらしい。 けれど、都古からすれば、自分より身長も低く筋力もなさそうな二人に心配されるのは心外だ。

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