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act.3君と星の世界へ<61>

「……おや、あの子は葵ちゃんの連れかな?珍しいじゃないか、いつも一人で来るのに」 館長はようやく葵の後ろに控える奈央に気が付き、奈央にも柔らかい笑みを向けてくれる。その雰囲気にはまるで棘がなく、奈央も自然と笑顔で会釈を返していた。 「奈央さんは学校の先輩なんです」 「そうかそうか、でもそうして並んでいると兄弟みたいだよ」 「ほんとですか?嬉しい、奈央さん、兄弟だって」 可愛らしい葵と兄弟に見えるなんて、奈央にとっても嬉しい。けれど喜んで振り返ってくる葵に同意を示しながらも、頭の片隅ではもっと違う関係に見えてくれたらとおこがましいことを思い浮かべてしまう。 「連休だっていうのに、今日のお客さんは葵ちゃん達だけだろうね、きっと」 葵と奈央の二人分のチケットを用意しながら、ぽつりと館長が呟く。 確かに公園の敷地内ならともかく、少し外れた場所にある古びたプラネタリウムは今時流行らないのかもしれない。経営難であることは外装からも、そして寂しげな内装からもよく伝わってきた。 けれど、チケットを渡してくる館長に何と返せばよいか悩む奈央とは裏腹に葵の声は明るい。 「僕は貸し切りみたいでわくわくしちゃいますよ?」 葵の前向きな言葉で今まで肩を落としていた館長が豪快に笑いだした。 「貸し切りか、なるほど。物は考えようだな葵ちゃん。よし、じゃあ今日は二人のために貸し切りにしたってことにしようじゃないか」 根本的な解決には到底至らないが、葵の言葉で彼は確実に救われたようだった。 葵は自分自身の事には繊細で人一倍脆いように見えて、他者の痛みにはこうして芯の強さを見せてくる。その優しさに奈央自身も何度元気づけられたか分からない。 自分も同じように葵を支えられる存在になれたなら。歓迎会の出来事を思い出して、奈央は胸が苦しくなる感覚を覚える。 「奈央さん、行きましょう」 張り切ってドームの中に入っていった館長の後を追いかける葵が、まだ受付に突っ立っている奈央を急かしてきた。 わずかな照明しか付けられていないドーム内は、ひんやりとした空気が漂っていて心地良い。所狭しと並べられた座席のどこに座ろうか葵と二人で相談し始めると、奥から顔をだした館長が一番見やすい席を教えてくれる。 前も教えたのに、と館長に責められた葵は少し気まずそうだったけれど、そんなやり取りさえ楽しんでいる様子だった。

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