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act.3君と星の世界へ<65>

「今生徒会頑張れるのは、奈央さんのおかげです」 奈央が葵の瞳をジッと見つめれば、葵も真っ直ぐに見返してくれる。普段は蜂蜜色をした瞳が、今は星の明かりに照らされて青く色づいていた。 「櫻先輩に怒られちゃった時、本当は生徒会室にすごく入りにくくて。でも奈央さんが背中を押してくれたから、ちゃんとがんばれました」 あの日の出来事を振り返って尚、葵は櫻に”怒られた”と表現する。櫻がどんな想いを抱えてああした行動に至ったのか、葵はまだ理解していないらしい。 報われない友人を思い遣って思わず笑みを零した奈央は、その後葵からもたらされた言葉にその笑みをすぐ奪われた。 「あの日、生徒会では結局櫻先輩とお話できなかったけど……上野先輩が、僕から櫻先輩にちゃんと好きって伝えたほうがいいって言ってくれて。だから、仲直り出来たのは奈央さんと、上野先輩のおかげ」 昨日、生徒会から抜けることを表明した幸樹の名前がこんな場面で葵の口から出てくるとは思わなかった。それに、櫻との一件に幸樹が絡んでいたことも奈央は今初めて知った。 いつもふざけてばかりの友人は、きちんと葵と信頼関係を結んでいたらしい。それを知ると尚更、幸樹の決断が重たいものに思えてくる。 基本的に一匹狼で誰の束縛も受けたがらない幸樹がこうして生徒会役員で居続けたなんて奇跡に等しい。もう忍や奈央が何を言おうと彼は本当に戻ってこないかもしれない。 後で知って辛くなるなら今この場で葵に告げてやるべきか。 奈央が迷っていると、先に葵からは今までとは違う声のトーンで言葉が紡がれた。 「奈央さん、あのね、歓迎会のこと、少しだけ思い出したんです」 この空間はやはり葵の抱える思いを吐露させるにはうってつけらしい。葵の周囲では必然的にタブーとなっていた日々のことを葵のほうから持ちかけてきた。 この流れではきっと幸樹との時間にまつわる記憶の話になるのは違いない。けれど不安になる奈央をよそに、葵は恐れること無くぽつりぽつりと記憶を言葉に乗せていく。 「夜、上野先輩と一緒に出かけて、沢山お話しました。それから、二つ、約束したはずなんです」 思い出したとは言え、おぼろげなのだろう。語尾が少しだけ弱くなった。 「タバコ、やめるって言ってくれて」 葵が幸樹と交わしたという約束の一つは予想外のものだった。 奈央の知る限り、中等部からヘビースモーカーだった幸樹が一体どんな話の流れでそんなことを約束させられたのだろう。奈央は単純に葵の使った魔法を知りたくなってしまう。 けれど、二つ目の約束を口にしようとする葵の表情が一段と暗くなったのに気が付き、奈央は遮ることをやめた。

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