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act.3君と星の世界へ<66>
「それから、生徒会、もっと来てくれるって、言ってくれたはずで」
二つ目の約束も、奈央を十分に驚かせた。昨年度も散々冬耶や遥が幸樹を叱っても、生徒会室に顔を出す習慣は付けられなかったし、今年度も同じくだ。
そもそも櫻に至っては幸樹に来なくていいとさえ言い切ってしまっているから余計にこじれてしまっている。
そんな幸樹が葵と約束を交わしたなんてにわかには信じがたい。しかし軽い調子の男ではあるが、葵相手に平気で嘘が付けるとも思えない。きっとその時、その瞬間は幸樹だって本気で葵との約束を守る気でいたのだろう。
「でも、上野先輩にあれから会えなくて……やっぱり何か、しちゃったんでしょうか?奈央さん、知ってますか?」
次に幸樹に会う機会があるならば、心の底から馬鹿だと罵ってやりたくなる。奈央は友人への非難をグッと堪えて、葵の体をもう一度引き寄せた。
葵を溺れさせただけででもその不注意を許せないというのに、こうしてその後のフォローもせずに逃げ出した臆病すぎる幸樹。
彼がああ見えて人付き合いが下手なことは知っているし、だからこそ一人行動を貫いていることも、へらへらとした笑いを崩さないことも理解しているつもりだ。
彼なりの防御策なのだろうが、今回ばかりは見逃してやらない。何が何でも葵の前に連れ戻して、自分の口で葵と向き合わせてやる。奈央はそう決心すると、腕の中の葵にあの夜の真相を少しだけ教えてやった。
「歓迎会の日に、僕が幸ちゃんと喧嘩しちゃったんだ。軽く、だけどぶっちゃって」
「え、奈央さんが、ですか?」
「うん、それで僕に会いづらいんだと思う。ごめんね、葵くんまで巻き込んで寂しい思いさせちゃってるよね」
これは幸樹のための嘘ではない。葵のための嘘だ。それに、湖から戻ってきた幸樹の頬を叩いたことも、それによって幸樹と気まずくなったのも真実ではある。
打ち明ければ、葵は驚いたように目を丸くしたが、それでも奈央の嘘に素直に騙されてくれた。
「早く仲直りして、幸ちゃん連れてくるからね」
「手伝えることがあったら、何でもします」
葵と櫻のすれ違いを解決したのが奈央と幸樹だから、だろうか。葵は二人の仲直りへの意欲も見せてくれる。
そして奈央のことも、幸樹のことも大好きだと告げた葵は、二人の関係が元に戻ったら今度は三人で出掛けることを提案までしてくれる。
二つ返事で引き受けた奈央は、この嘘をきっと真実にしなくては。そう星の煌めきに誓ってみせた。
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