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act.3君と星の世界へ<67>
* * * * * *
「ここで間違いない?」
目の前にそびえ立つ馬鹿でかいビルを見上げた冬耶は、思わず隣の陽平に声を掛けてしまう。怖じ気づいたわけではない。ただあまりの規模に驚かずにはいられなかったのだ。
ビルの入口には” Fujisawa”の名が掲げられ、そしてフロアマップにはグループ会社や関連会社の名がずらりと並べ立てられている。学生である冬耶でも耳にしたことのある社名も少なくない。
昨日陽平が受け取った手紙の送り主は、待ち合わせ場所にこの場を指定してきた。連休中ではあるが、世界レベルで運営されている会社では日本の休日など関係がないのかもしれない。
通常の平日よりは少ないのだろうが、正面玄関に突っ立っている陽平と冬耶の傍を、さっきから足早に何人もの大人が行き交っていた。
その中の一人が場違いな二人に気が付き、歩み寄ってくる。仕立てのいいスーツを着こなす男性はその仕草も洗練されていて無駄がない。
「西名様、ですね。お待ちしておりました」
どうやら馨が手配した迎えらしい。陽平が頷けば、彼は丁寧に会釈すると、建物の中へと二人を導いていく。
建物の中には受付があるが、男性はその前を通り過ぎ、数基並んでいるエレベーターをも無視して、更に奥へと足を進めていく。
その先にはカードキーで解錠するタイプの扉があった。そこを開ければ、先程並んでいたものとは色味の違うエレベーターが一つだけ設置されている。
わざわざ聞かずとも、この建物の中で最も中枢の場所へと繋がる特別なものなのだと冬耶は理解した。
そのエレベーターの内部にもカードを通す機械が設置され、男性がそこに別のカードをかざすと階を指定せずとも自動的に箱は動き出す。
「冬耶、奴とは基本俺が話す。お前は黙ってろ。……ただ」
「分かってるよ。危なくなったら止めるから」
昨夜陽平に頼まれたことは確認されずとももちろん遂行するつもりだ。冬耶だって父親を犯罪者になどしたくない。馨を守るのは癪だが、この父親が一度キレたら止まらなくなるのはよく知っている。
そんな性質を冬耶自身も受け継いでいるし、弟はより一層似てしまっている。本当なら京介もここに連れてきてやりたかったが、さすがの冬耶も血気盛んな陽平と京介の二人を一人で止める自信はなかった。
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