321 / 1393

act.3君と星の世界へ<72>

* * * * * * 繁華街から少し抜けた先にある単身者向けのマンション。外装も、そして正面玄関から見えるエントランスも特段凝った造りは施されておらず、いたってシンプルで品が良い。 とはいえ併設された駐車場にはそれなりのメーカーの車種が並んでいるのだから、とてもじゃないがただの隠れ家として使う範囲を越えている家賃であることは簡単に想像がついた。 京介はこの場所に何度か足を運んだことがあるが、住人の許可を取らずにやってきたのはこれが初めてだ。 呼びかけても解錠されない可能性を踏まえ、あらかじめこの部屋の合鍵もきちんと入手してからやってきている。抜かりはなかった。 正面玄関に置かれたセキュリティに鍵をかざせば、簡単に扉が開いてくれる。京介はその扉をくぐると、迷うこと無くエレベーターに乗り込み、目的の階、そして部屋へと向かう。 角部屋のそこはきっちりと扉が閉められているものの、中から激しいジャンルの音楽が漏れ聞こえている。中に人がいる証拠だった。 京介は再度鍵を取り出すと、勝手に扉を開けて中への侵入を試みた。 室内は相変わらず無駄なものが一切ない。それどころかどうやって生活をしているのかと疑問に思うほど殺風景だ。 バスルームやトイレへと繋がる廊下を抜けた先のガラス戸を開ければ、中には寝室とリビングが引き戸で一続きになった空間が現れた。 窓際に大きなベッドがある他、申し訳程度に服が掛かったラックと、ピアスやブレスレットなどの装飾品が無造作に放られたテーブル、そして馬鹿でかいロックを流すコンポぐらいしか家具という家具はない。 「近所迷惑だろーが」 音のせいで家主はまだ京介の侵入に気が付いていないらしい。だからコンポの音量を操作するツマミを一気に絞れば、ようやくベッドの上の大きな塊が飛び上がった。 「なッ…ちょ、びっくりしたわ、何なんもう」 「よぉ、久しぶりだな幸樹」 侵入者が友人だと気付いた彼、幸樹は一瞬だけ見せた殺気を仕舞い込み、気まずそうな顔でガシガシと頭を掻いた。普段はワックスでツンと立てられている短い金髪は、今は大人しくへたっている。彼の弱った心情を表しているかのようだった。

ともだちにシェアしよう!