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act.3君と星の世界へ<73>
「何で入れたん?鍵開いてた?」
「いや、閉まってた」
京介はそう言いながら、手元で遊ばせていた合鍵を幸樹へと放り投げた。難なくキャッチした幸樹は、その鍵に見覚えのあるキーホルダーがぶら下がっているのを見て、すぐに察する。
「大樹か、ったくあいつは」
「怒んないでやって。俺が無理に預かっただけだから」
大樹とは幸樹の末の弟の名だ。まだ中学生の彼は、兄を慕っている。この幸樹の隠れ家にも、食料を届けたり、掃除をしたりといわばパシリのように出入りしているから鍵の所持を許可されているのだ。
そして彼はまた京介のことも慕っている。だから渋りはしたものの鍵を預けてくれた。
「お前さ、生徒会辞めんだって?」
幸樹の腰掛けるベッドの正面の床に座りながら、京介は早速本題に入った。
「早いな、もう京介まで伝わってるんや。……てことは、藤沢ちゃんも?」
「あいつには言ってない。俺が高山さんから連絡もらっただけ」
京介がそう告げると、幸樹はあからさまに安堵した表情を浮かべた。自分で辞めると宣言したくせに、それを葵が知ったらどう思うか自覚はしているようだ。
「でも時間の問題だろ。どうすんの、マジで辞めんの?」
再度尋ねれば幸樹は押し黙ってしまう。普段はくだらないことばかり喋り続けるタイプなのに、真面目な話になるとどうしても幸樹の口は重たくなる。
「今辞めたらお前出席日数ヤバくね?若葉みたいに留年したいのかよ」
共通の知り合いの名を口にすれば、幸樹は力なく首を横に振った。
役員という特権が無ければ、幸樹はとっくに留年、退学の扱いを受けていてもおかしくない。それぐらい真面目に授業に参加したことがなかった。それを見かねた当時の生徒会が幸樹を招き入れ、何とか首を繋いでやっている状態だ。
「葵のことなら気にすんな。つーか、お前がこれで辞めたらそれこそ葵が傷つくって、分かってんの?」
「分かってる。けど……」
京介が追い打ちを掛ければ、幸樹は顔を押さえてうなだれてしまう。どうやらかなり重症らしい。
幸樹も葵のことを彼なりに可愛がってくれているとは知っていたが、彼の中でここまで葵の存在が大きくなっていることを京介は気が付けていなかった。
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