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act.3君と星の世界へ<76>

「あぁもう、アホみたいやん」 京介が試しに幸樹の目の前で彼の番号を呼び出せば、やはり幸樹の携帯は何の動作も見せない。いよいよ納得したらしい幸樹は、くしゃりと顔を歪めてうなだれた。 家の人間とはもう一台幸樹が所持している携帯でやりとりしていたせいで、全く気が付かなかったらしい。 幸樹がプライベートの携帯で普段連絡を取り合う相手など、京介と奈央ぐらいしかいないし、発信に関しては問題ないという。昨日忍を呼び出せたことも、携帯の不調に気が付けない要因になっていたようだった。 「アホだろ、どう考えても。……で、戻んの?」 ようやく幸樹を説得できる、そう確信した京介の予想に反し、幸樹はまだ煮え切らない態度をとる。 「それがその、もうガッコも辞める気で、家継ぐって親父に言ってもーた」 「……馬鹿。ヤケになってんじゃねぇよ」 幸樹が家業を継ぎたがっていないことも、そのために惰性で学園に籍を残し続けていることも、京介は知っていた。しかし学園を辞めた後の行き場に困った彼は、ずっと避けてきた道を選択してしまったようだ。 あまりにも短絡的で先が思いやられる。 「親父さん、喜んでんだろ」 「そらもう、とてつもなく」 一度だけ顔を合わせたことのある幸樹の父親。その時、京介が幸樹の友人だと知ると、初対面にも関わらず幸樹に跡を継ぐよう説得する協力をしてくれと頼んできたぐらいだ。幸樹がとうとう意志を固めたとなればどう反応するかなんて目にみえていた。 「とりあえず卒業まで見逃してもらえよ」 「……殺される気ぃするわ」 「そっちまではさすがに面倒見れねぇからな」 すがるような目を向けてきた友人を、今度はばっさりと拒絶する。さすがの京介も幸樹の家庭事情には首を突っ込みたくはない。幸樹自身が解決すべき問題だ。 「俺はお前が何選ぼうと、どうでもいいから」 家業を継ごうが継ぐまいが、京介には関係ない。言葉だけを見れば冷たくも見えるが、本当にどうでもいい。どちらにしても、彼が友人であることに違いはないのだ。 そう言ってやれば、幸樹はやっといつものへらりとした笑顔を浮かべた。 「もうちょい時間ちょうだい。頭ン中整理するわ」 「おう。……でもその前に携帯直せ」 ただでさえ神出鬼没な幸樹を捕まえるには携帯が必要不可欠だ。幸樹もその気になったらしい。立ち上がり、そして部屋着からラックにかけた普段着へと着替え始める。 「ほな、京ちゃん、新しいの買いに行くの付き合って」 「てめぇ、次それで呼んだら絞め殺すぞ」 もうすっかり元の調子に戻りかけているらしい。葵だけの京介の呼び名を口にする余裕さえ見せてきた幸樹に、京介はもう一度、脛に蹴りをお見舞いしてやった。

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