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act.3君と星の世界へ<80>
「すっかり長居しちゃったね。そろそろ行こうか」
館長との歓談を楽しんでいれば、あっという間に時が経ち、冬耶から奈央宛に連絡が入った。葵は名残惜しそうにするが、冬耶が待っているとなれば素直に館長に手を振ってみせる。
「奈央さんもまたおいで。葵ちゃんの学校の話、色々聞かせておくれ」
「はい、また来ます」
葵から学園の事も今の家庭の事も聞いていない様子の館長は、奈央が語る学園での葵の話が大層新鮮だったらしい。リクエストされれば奈央も喜んで頷きを返す。
空はすっかり夕焼け色に染まっている。また帽子を目深に被ってしまったものの、葵のうなじにかかる毛先が陽の光を浴びて茜色に輝いているのに気が付き目が奪われた。
どうしてこんなにも美しい髪を、蔑む対象と思えるのだろう。プラネタリウムでの会話を思い出した奈央は、密かにまた胸を痛める。
けれど、奈央の沈む気持ちとは裏腹に、お気に入りの場所を満喫した葵はひどくご機嫌だった。奈央の肩に手を当てたかと思うと、歩道の縁にある段差に登り、バランスを取りながら軽快に歩んでいく。
「奈央さんと同じくらいの背になれました」
「本当だ」
「同じもののはずなのに、見る高さが違うと随分印象が違うんですね」
葵が何を見てそういったか分からない。だが、奈央は葵が少しでもその景色を楽しめるよう、歩調をほんの少し緩めてやる。
「もう伸びないですかね」
「うーん……どう、だろうね?」
奈央の記憶では葵は去年から少ししか成長していないように思える。年齢を考えても、今から大幅に伸びることは期待しないほうがいいだろう。
「みゃーちゃんは去年いっぱい伸びたんです。十センチくらい。だから僕も伸びるかなって思ったんですけど」
「そういえば烏山くんって僕より小さかったよね、確か」
いつも葵の傍にべったりと引っ付く存在の一年前の姿は、確かに自分よりも小柄だった事を奈央は覚えている。
今以上に線が細かった都古と、そして葵のコンビが廊下を歩いている姿を見て、日本人形とビスクドールのようだと例えていた生徒が居たことも思い出した。確かにその言葉通りだと頷きたくなった記憶がある。
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