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act.3君と星の世界へ<81>
「七ちゃんまで大きくなったらどうしよう」
唯一自分よりも小さい七瀬の名を出した葵の表情は、少しだけ不安げだ。可愛く見えても男の子。体格にはそれなりのコンプレックスがあるのだろう。
「ご飯、いっぱい食べなきゃ」
少食な性質が成長を妨げている一因だと葵は予測しているらしい。決意表明されれば応援したくなるが、何度か葵が苦しむ姿を目の当たりにしている者としては手放しに頑張れとは言いづらい。
「無理だけはしないでね」
そう言えば、葵の歩みがぴたりと止まる。肩に触れられていた手の感触が離れたせいで気が付いた奈央も、合わせて歩みを止めた。
「奈央さん。沢山心配かけて、ごめんなさい」
「どうしたの?急に」
正面から向き合ってぺこりと頭を下げられれば、驚くなというほうが無理だろう。慌てて顔を上げさせるが、葵の眉はすっかりへたってしまっている。
歓迎会中に具合が悪くなった姿を目撃したことを気にしているのだろう。
「そんな顔しないで。弱い所、もっと見せて欲しいぐらいだよ」
「そう……ですか?」
「うん。それで、ちゃんと頼ってほしいな。プラネタリウムでも言ったけど、僕は一緒に居るだけで葵くんが元気になれるような、安心できるような存在になりたいから」
同じ高さで視線が絡むことに違和感を感じながら、奈央は真っ直ぐな気持ちを葵にぶつけた。好きとか、愛しているとか。きっと葵を取り巻く者たちは皆、ストレートに愛を紡げるのだろうが、今の奈央にはそれが出来ないから。
せめて葵が悩まずに接することが出来る存在になってやりたい。
「じゃあ僕も、そうなりたいです。奈央さんが辛い時はずっと一緒に居ます」
「ありがとう、じゃあきっとお願いするよ」
また約束を交わすように互いの小指を絡めて、そしてまた歩きだす。
口付けをするわけでもない。抱き合いもしない。手すら繋がない。ただ触れているのは互いの一番小さな指だけ。だが、そこには確かな熱がある。それがこのまま育ててしまってはいけないことぐらい、奈央は自覚している。
けれど、冷ますこと無く熱することも無く、永遠に温めたままでいたいと願うことぐらいは、許して欲しい。
奈央は瞼を伏せてその温もりを胸に刻み込んだ。
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