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act.3君と星の世界へ<85>

* * * * * * 冬耶からの待ち合わせに指定されたのは実家の最寄り駅から一つ手前の駅。 この駅に立ち寄れば奈央の家まで遠回りになるから、と葵は一人で向かおうとしたのだが、奈央は冬耶に挨拶をしたいからと言い張って、結局最後まで付き添ってくれた。 駅の改札を出れば、冬耶の姿はすぐに見つかった。背が高いだけでなく、そこから自分が今被っているものと色違いの帽子が見えて目印になっているのだ。 「お兄ちゃん!」 呼びかければ冬耶もこちらに気づき、大きく手を振ってくれる。 奈央とプラネタリウムからずっと繋いでいた小指はそこでようやく離れてしまって名残惜しさを感じるが、冬耶に駆けつけられるよう奈央が笑顔で背中を押してくれるから、素直に頷いて冬耶の元へと向かう。 「あーちゃん、会いたかったよ。早く会いたかった」 「大げさだよ、お昼まで一緒だったのに」 近づくなり、ギュッと抱きついてきて頬擦りまでしてくる冬耶の愛情表現はいつも以上に過剰だ。でも嫌なわけじゃない。葵からも冬耶の首に腕を回して抱きついてみせる。 「お兄ちゃん、もうあーちゃんのこと離せないかも」 「いいよ?それでも」 葵だって大好きな兄とずっと傍に居られるなんて嬉しい限り。だからそう返せば、一瞬冬耶の顔が泣きそうに歪んだ。でも何かあったのかと思う間もなく冬耶から質問攻めにされてしまう。 「あーちゃん、デート楽しかった?どこ行ったの?ちゃんとなっち、リードしてくれた?」 「えっと……どこ行ったかは内緒」 プラネタリウムは、葵が幼い頃大切な人に連れて行ってもらった思い出の場所。ぼんやりとだがおそらくそれは母親だったと、葵は思っている。 でもそれを告げた瞬間京介には、彼女がそんな場所に葵を連れて行ってくれたわけがないと思い出を否定されてしまった。冬耶も京介ほどストレートではないが、記憶違いだと思うと諭された。 だから、そこから何となくあの場所での思い出の記憶に浸っていることを、彼等に打ち明けにくくなってしまったのだ。 「何だそれ。なっち、どういうことだ?どこ?さては口に出せないようなイケない所に連れて行ったんじゃないだろうな?」 「な、何馬鹿なこと言ってるんですか。そんなわけないでしょう」 「じゃあどこだよ」 「葵くんが言うなら内緒で」 追及の対象を奈央に変えた冬耶だったが、奈央は葵に一度にこりと笑いかけ、そして秘密を貫いてくれた。 「いつのまにそんなに仲良しになっちゃったの。ずるいなぁもう」 冬耶はそれ以上問い詰めるのはやめて、また葵を抱き締めてくれる。大好きな兄を仲間外れにするようでチクリと胸が傷んでしまうが、それすら見越して冬耶はすぐに葵に微笑んだ。 「いいよ、あーちゃん。なっちと大切な思い出が出来たんだね。二人だけの宝物にしな」 「うん、とっても楽しかった。ありがとう、お兄ちゃん」 無理に暴くことをせずそんな葵も丸ごと包んでくれる兄が、葵は大好きだ。だから帽子越しに頭を撫でてくれる冬耶の手に、自分の手を絡めて離れないよう強く握り締めた。

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