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act.3君と星の世界へ<88>
「や、だ。お兄ちゃん、助けて」
「物分りが悪いね、全く。まぁいいや。また今度ゆっくり話そう」
思わず兄を呼んでしまえば、彼は呆れたように溜息をつき、そして葵の腕を離してくれた。
”また”なんて来ないで欲しい。何が目的なのか分からないが、とにかく二度と会いたくない。そう思ってしまう。
彼の気が変わらないうちに走り出せば、レジの列には変わらず、冬耶が居てくれた。
「お兄ちゃん!」
「どうした?ごめん、まだもうちょっと掛かっちゃいそうだよ。なんかレジ一台故障してるっぽくて」
待ちきれなくなったのだと冬耶は思ったらしい。駆けつけた葵をなだめるように頭を撫でてくれるが、もう葵は会計なんてどうでも良かった。
「いい、もういらない。早く、早く、帰ろう」
「え?……分かった、おいで」
葵の怯えた様子に冬耶はすぐさまレジの列を抜けて、葵の手を引き、落ち着ける場所へと誘導してくれた。
本屋の外を出た先にある遊歩道脇のベンチ。そこに葵を座らせ、その前に冬耶がしゃがみ込んで顔を覗き込んでくる。
「ごめん、あーちゃんからちょっとでも目を離した俺が馬鹿だったね。怖いことあったんだろ?全部話してごらん?」
まだ震えの残る両手を包み込んで、そっと語りかけてくれる冬耶に、思わず全て打ち明けたくなってしまう。だが、こんなにも優しい兄を”偽物の兄”だと言われ、更に罵倒される言葉を並べられたと教えれば、彼を傷つけてしまうのは目に見えていた。
だから葵は唇を噛んで首を横に振る。
「ねぇあーちゃん。帽子は?どうしたの?」
首を振ると必然的に柔らかな髪も揺れる。それを見て冬耶は葵の帽子が失くなっていることに気が付いたようだった。
「なくし、ちゃった。ごめんなさい」
「どうして本屋さんで失くすの?ちゃんと教えて」
「……ごめんなさい」
冬耶に買ってもらったお揃いの帽子。それを取られたなんて言えなかった。けれど、失くしたというのもあまりに酷い告白だ。冬耶の顔をまともに見れなくて顔を伏せてしまう。
「全くもう、しょうがないな。また買いに行こうな?」
冬耶の声は怒ってなどいない。ただ、そこに明らかな隠し事をする葵に対しての悲しみが込められているのは鈍い葵だって痛切に感じる。
「お兄ちゃんのじゃちょっと大きいけど、お家まで我慢してくれる?」
葵の髪が晒されている状態なのを思い遣って、自分の帽子を被せてくれる冬耶の優しさに、とうとう堪えていた涙が溢れてきた。
やはり自分の兄は冬耶しかいない。冬耶が自分を惑わしているなんて嘘に決まってる。あの男の言葉に頭の中で反論しながら、葵は冬耶に抱きついた。
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