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act.3君と星の世界へ<95>

「アオ、俺も、したい」 されるのも好きだが、都古からも葵に口付けたい。ただでさえぴったりと密着して幼いキスを与えられているのだから、都古の我慢が効かなくなるのも無理はなかった。 仰向けの葵に覆い被さるような体勢に変えれば、さっきまでの余裕はどこへやら。葵は途端に顔を赤くして逃げたそうに視線を逸してしまう。 「アオ、命令、して」 「何を?」 「キス、してって」 強引に奪うのは得意だが、今日は葵の口からきちんと求められたい。いつもよりも甘い葵なら叶えてくれそうな予感がするのだ。都古の予感通り、葵は嫌とは言わない。戸惑うように頬を染めて、そして都古のシャツを掴む手に力を込め、口を開いた。 「みゃーちゃん……あの、ね」 念願のおねだりが聞けるとあってあからさまに頬が緩むのを止められない。けれど、それは乱入してきた人物によって中断を余儀なくされてしまった。 「おいコラ馬鹿猫。人ん家で何やってんだよ」 乱暴に扉が開かれたと思えば、とてつもなく不機嫌な声が甘ったるい雰囲気をぶち壊してくる。見やればそこにはただでさえ悪い目つきを更に尖らせた京介が仁王立ちしていた。言い訳不要の体勢なのだからそれも仕方ない。 「葵、おふくろが呼んでる。早く行ってやって」 「え、あぁ…うん。みゃーちゃん、ごめんね」 気遣わしげな視線の中に少しだけ安堵が見える。だから都古は葵を押さえる手を緩めて解放してやった。 「何勝手に泊まることになってんだよ。補習は?サボり?」 葵の背中を見送れば、途端に一歩も動きたくなくなってしまう。ごろりと羽毛に横たわると京介からは厳しい声が浴びせられる。けれど、どこかにお節介なニュアンスが込められているのだ。ライバルだと言うのに、彼は本当にぬるい。都古が京介の立場ならとっくに葵を独り占めしていたに違いない、そう思う。 「お前、ゲストルーム使えよ」 「……やだ」 補習についての問いに答えるつもりがないと察した京介が、今夜の寝床の指示をしてくるが、都古は葵と寝る以外の選択肢など持ち合わせていない。彼から目を逸したまま宣言すれば、盛大な舌打ちが返ってきた。 寮の葵のベッドなら三人は優に眠れるサイズをしているが、この部屋ではそうもいかない。普通のシングルベッドは細身の都古でも葵と寝るならばその体をしっかり抱えてやらないといけないだろう。到底あと一人分のスペースなどあるはずもない。 「じゃ、葵は俺の部屋な」 「は?」 京介はそう言い残して部屋を出て行った。彼もまた、都古に譲る気はないらしい。補習をこなして葵不足な自分を気遣って欲しいものだが、そこまでは彼も甘くないようだ。 それならば京介よりも先に眠る支度を済ませて葵を確保してしまおう。思い立った都古は一度大きく伸びをすると、さも当たり前のように西名家のバスルームへと向かい始めた。

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