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act.3君と星の世界へ<98>

「北条には学園自体のセキュリティに気をつけさせるよう上手く伝えとくから。京介はみや君とちゃんと協力して、あーちゃんの傍に居てあげて」 記憶を辿る作業を中断させたのは冬耶からの指示だった。自分一人で葵を守ってやれない、その環境が歯がゆくて堪らない。葵が自分の元を離れる可能性があるなんて許せない。 陽平の書斎から出てリビング前の廊下を通れば、中から母と会話する葵の声が聞こえてきた。扉のガラス部分から覗き見ると、二人でアルバムの写真を整理しているらしい。楽しげに撮影時の思い出を振り返る姿に無性に胸が張り裂けそうになる。 「あ、京ちゃん、見て見て」 京介の姿に気が付いた葵が、一枚の写真を片手に手を振ってきた。歩み寄ってやれば、その写真が自分と葵、そして冬耶、遥の四人が映ったものだと分かった。 「これ、遥さんが初めてうちにお泊りした時の写真だよね」 葵から差し出された写真を手に取れば、そこには幼い日の自分たちが居た。今とほとんど変わらない内装の部屋で皆カメラに向かって笑顔を向けているが、葵だけは京介の背中に隠れてほとんどその姿は見えていない。 この時期は葵が西名家の一員になってまだそれほど時間が経っていなかった。いつも京介の背中に隠れているか、冬耶に手を繋がれていた葵にとって、遥は”冬耶の友人”という遠い立ち位置だったと記憶している。 「お前、覚えてんの?」 柔らかなラグの上に直接腰を下ろしている葵の前にしゃがみこみながら、京介はそんなことを聞いてみた。家族になってしばらくは声すら失うほど傷ついていた葵は、遥と目を合わせることもまともに出来ていなかった。 でも葵のこの様子を見ると、彼にとっては辛い思い出ではなかったらしい。 「覚えてる。京ちゃんが、遥さんは怖くないよって教えてくれた」 「そうだっけ?」 京介が覚えていないことまで葵は記憶しているようだった。西名家以外にはまだ怯えてばかりの葵と、何とか仲良くなろうと歩み寄る遥を必死になって繋げていたのは兄だったはずだが、どうやら自分も手助けをしていたらしい。 もしこんなにも葵にとって大切な人物になってしまうと分かっていたら、きっと遥と仲良くさせるなんて後押しをしなかったかもしれない。ずっと自分の背中に引っ付く葵を独り占めしたかったのだから。 けれど、自分のおかげで遥を大好きになれたと感謝されて悪い気はしない。

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