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act.3君と星の世界へ<104>

「今日は生徒会、だったんだろう?あまりに予想外のことだったからさすがに上手く切り返してやれなかった」 直接的な物言いではないが、加南子から話を聞いていた奈央は忍の言いたいことがすぐに理解出来た。 加南子の友人は“婚約者が生徒会を優先させてしまった”とでも愚痴を零されていたのであろう。奈央と同じ生徒会に出席しているべき忍が目の前に居る事に対し、その子は直接疑問をぶつけたようだった。突然思いもしない事を聞かれれば冷静沈着な忍でも困惑するのは無理もない。だが、それを気にしてこうしてわざわざ顔を出す忍をいい友人だとは思っても、咎めるわけがない。 「平気。巻き込んじゃってごめんね。気にしないで」 「……もう少し上手く嘘を付けるようになったほうがいい。女のあしらい方もな」 同い年だと言うのに年不相応な台詞をさらりと吐く忍には思わず苦笑いが溢れてしまう。彼がどこまで奈央の事情を見透かしているか分からないが、気遣いはするものの無闇に踏み込んでこない距離感がありがたかった。 「良くわかったね。帰ってきたって」 まさか気にするあまり自分の帰りをずっと待っていたのではないか。さすがに無いとは思いつつもあまりにタイミングの良すぎる来訪を訝しがれば、忍はようやくいつもの不敵な表情に戻った。 「西名さんからセキュリティを強化しろと連絡が入ってな。カードキーの利用記録をリアルタイムで確認出来るよう設定していたら、ちょうど奈央のキーが使用された通知が出てきたんだ」 「あぁ、だからか。……でも、強化って?何かあったの?」 忍の言い分には素直に納得出来たが、新たに引っかかりを覚えた。冬耶は今年度の生徒会に業務を引き継いだ際、今後学園の統治には口を出さないと宣言していた。たまに嫌気が差すほどお節介だというのに、そうした身の引き方を彼はよく心得ている。そんな彼がこのタイミングで学園の防犯に口を出す理由など、どう考えても一つしか思い浮かばない。 「葵くんに何か関係してる?」 冬耶の行動の全ては葵が基軸になっている。だから今回忍に連絡を入れたのもきっと葵に関わる何かのせいだと、そう思う。だが、忍から返ってきたのはまたも奈央の予想に反する答えだった。 「連休が明けたら奴が帰ってくるだろう?それを危惧しているらしい」 「奴って?」 「九夜だ。九夜、若葉」 名を告げられてようやく奈央もその存在を思い出した。本来は冬耶と同じ学年だったが、あまりの素行の悪さに留年処分となった男。留年だけでは飽き足らず、無実の一般生徒に酷い怪我を負わせた罪で長く謹慎処分となっていた。その期間がこの連休で終わる。

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