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act.4哀婉ドール<1>

* * * * * * 「アオ、いいよ」 「ダメ、一緒に行く」 西名家の玄関口で先程から繰り返されている葵と都古のやりとり。珍しく駄々をこねているのは葵のほうだった。たっぷり葵を補給した都古が綺麗に洗濯された制服を身に付け補習へと向かおうとすると、予想外にご主人様まで身支度を整えて着いてくる意思を見せたのだ。 葵なりに都古が傷を付けて帰ってきたことを気にしてくれているようだが、さすがに学園まで葵を連れていくのは憚られる。都古だって葵と共に過ごせるのは嬉しいが、学園まで都古を送った後葵一人で家に帰らせるのも、補習が終わるまで学園で待たせるのも、どちらも心配でならない。 こういう時に止めてくれるはずの京介は、朝方帰ってきたらしく自室で眠り始めたばかりで役に立たない。 「……冬耶さん」 途方に暮れた都古が唯一葵をなだめられる存在に助けを求めれば、冬耶からは苦笑いとともにこんな提案がもたらされた。 「あーちゃん、じゃあみや君の補習終わったら二人でお家に帰っておいで。それまでは部屋で宿題するなり、昨日の本読んだりしてみや君待ってな」 てっきり葵の注意を逸してくれることを言うのかと思えば、冬耶は葵を学園に向かわせるよう仕向けてきた。仮に都古に着いていかせるにしても、冬耶なら自分も付き添うと言ってくるのが自然だ。違和感を覚えて冬耶を見やれば、普段あまり見せることのない強い視線が返ってくる。どうやら何か意図があるらしい。 結局、兄に後押しされた葵に押し切られ、二人で登校する羽目になってしまった。 「……アオ、帽子は?」 「いいの、大丈夫」 手を繋いで駅に向かう道すがら、普段なら頑なに隠そうとする髪が晒されていることを都古が気遣えば、葵からは俯いたまま返事が返される。帽子なしで出掛ける事が平気になったわけではないのは、顔を上げない様子で明らかだ。繋いだ指先からもかすかに震えが感じられる。 思えば昨夜から葵の様子は少しおかしい。西名家に居るとどうしても葵は両親や冬耶、京介を選びがちなのに、不自然なほど都古から離れない。 “傍に居て” ベッドの中で送られた控えめながら切実な命令もそうだ。単に目に見えて傷ついた都古を慰めるためだけではない色がそこには込められていた。何かに怯えているように思えて仕方がない。

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