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act.4哀婉ドール<2>
「アオ、補習、やめた」
「……え?」
駅に着いてそう宣言すれば、葵からは当然驚いた反応が返ってくる。でもこのまま学園に連れて行って、葵を一人にするわけにはいかない。
「行きたいとこ、ある?」
「ダメだよ、みゃーちゃん。ちゃんと行かなきゃ」
「途中から、行く。だから、ね?」
少し強引なくらいに誘えば、葵は渋ってはみせたもののもう少し共に居たいのは同じ気持ちだったようだ。何度かの応酬のあと最後にはこくんと小さく頷きを返してくれた。
葵が迷った挙句行き先に選んだ場所は、都古が今まで二度、連れて行ってもらったことがある場所だった。学園の最寄り駅と同じ路線が通っているから寄り道にも最適だ。けれど、葵がそこを選んだ理由が気になる。
普段は二人で居ると、喋るのが得意ではない都古の分まで葵が色々な事を話してくれるのだが、目的の駅に到着するまで葵はジッと押し黙ったままだった。ただゆるく繋がれた手だけが葵をこの世界に留めている手段のように思えてならない。
それでも都古は余計な口出しはしない。葵がその場所へ都古を供として連れて行ってくれるのは、ただ静かに寄り添ってくれる存在だからだということをよく理解しているからだ。
ようやく葵が口を開いたのは、駅から数分歩いた頃だった。
「……お花、買って行ってもいい?」
都古が止める理由など何もない。頷いてやれば、道路脇にあった花屋へと葵の足が向き始めた。
小じんまりとした花屋の店頭には色鮮やかな花々が咲き誇っている。既にセットとして束ねられているものもあるが、葵は一つひとつ自分で花を選んでは出てきた店員へとそれを告げていく。ガードレールに腰掛けて待つ都古からは、葵のその横顔が眩しいぐらいに清らかに見えた。
「お待たせ、みゃーちゃん。……これ、どうかな?」
小さな花束を二つ抱えて出てきた葵は、都古にそれを差し出すと少し不安げに見つめてくる。白く小ぶりな花を基調とした花束は、派手さはないものの選んだ葵のように可憐だ。
「キレイ、だよ」
「良かった」
都古が素直な感想を述べれば、葵は心底安堵したように息をつき、そして再び都古へと手を絡めてくれた。小さな手がまた少し震えているのに気が付いて、都古はなだめるように指先で手の甲を擦ってやる。でも言葉は要らない。
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