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act.4哀婉ドール<8>

「葵ちゃん、すごい格好してんね。遊んでたの?」 「え?……あ、これは」 そこでようやく一ノ瀬に外されたボタンがそのままになっていることに気が付いた。慌ててボタンを留め直そうとするが、その手は目の前の彼に止められてしまう。何故か昨夜の都古の手のようにその手の甲に痣が浮かんでいることに気が付いて嫌な予感がした。彼の口元、ピアスの辺りにも紫色に変色した痕が残っている。 「やっぱピンクなんだねぇ、乳首。可愛い」 「え、何俺も見たいんだけど」 「……生徒会相手にやばくね?やめとけよ」 シャツを更に肌蹴させて胸元を露わにしてくるピアスの彼の手を拒もうとするが、一緒になって覗き込んでくる生徒のせいで叶わなかった。二人を諌める声も聞こえるが、葵の腕は離してもらえない。 「俺らさぁ昨日ミヤコちゃんに喧嘩売られちゃって。ここ、見える?超痛いんだよね」 やはり目の前の彼等は昨日都古と喧嘩した相手だったらしい。都古が悪いような口ぶりだが、傷を負っている生徒はこの場に複数いる。都古が誰かと共闘するとも思えないのだから、都古が一人で彼等に立ち向かったのは明らかだった。 「何があったんですか?」 「何って、普段葵ちゃんとどんな風に仲良くしてるのか教えてって聞いただけ」 「それだけ……?」 「そう、酷いよねぇミヤコちゃん」 これみよがしに傷口を押さえて訴えてくるピアスの彼の言葉を真正面から信じようとはどうしても思えない。けれど、葵以外には挑発的で無愛想な態度ばかりとる飼い猫の姿も知っている。一体何があったのだろう。 「え、やッ」 悩んでいる隙に背後から覆いかぶさられて葵は思わず悲鳴を上げた。前から覗き込んでいたはずのもう一人の生徒が後ろに回ってきたようだった。嫌がろうにも、手をピアスの生徒に掴まれてしまっているのだから大した抵抗は出来ない。 「や、だってさ、可愛いねマジで」 「おい、やめとけって。役員に直で手出したらマズいだろさすがに」 「昨日の烏山のことだってクイーンにバレてんだから」 エントランスのソファで葵達の様子を見守る残りの生徒達は、どうやら葵の味方らしい。そして彼等の話からは、昨日の出来事を”クイーン”こと櫻が把握していることも分かった。 「だからだよ。どうせ目付けられるんだったらもうちょっとイイ思いしてからのほうが良くね?」 「葵ちゃん今一人だっつってんだからイケるでしょ。つか、自分で脱いでるんだし」 ケラケラと背後の生徒が笑って、葵のシャツを引っ張ってきた。裾に三つほど残っていたボタンは一気に弾け飛んで全開にさせられてしまう。
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