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act.4哀婉ドール<9>
「やめ、て、離して」
「今のはお前が脱がしたんじゃん」
「いや、可愛くてつい」
葵の拒絶の声は彼等の耳にはちっとも入らないらしい。シャツを手繰り寄せようとするが、葵を無視して会話を続けるピアスの彼は手首を掴む力をちっとも緩めてはくれない。
そして何より葵を絶望させるのは、今まで傍観者だった生徒達まで立ち上がり、こちらに寄ってきてしまったこと。
「なぁ……どうする?」
「乗っとく?もったいねぇし」
ゴクリと唾を飲み込んだ彼等が見ているのは晒された葵の上半身。滑らかで白い肌は意図せずに見るものを煽ってしまう。
「じゃ、移動しますか」
「俺の部屋でいい?」
「一番近いとこにしようぜ」
全員が乗ってきたことで結論が出てしまったのだろう。後ろから回っていた手がぐっと葵の体を持ち上げて、エントランスから強制的に移動させようとしてきた。当然足をバタつかせて拒むが、その足首も簡単に捕らえられますます危ない体勢に追い込まれてしまう。おまけのように口もしっかりと大きな手で塞がれる。
このまま逃げることが出来なければ、きっととてつもなく悪いことが起きる予感がする。格闘技の経験があり喧嘩の強い都古と違って、葵は見た目通りひ弱だ。一対一でも勝ち目がないというのに、複数に囲まれればどう考えても都古の受けた怪我で済むはずがない。
部屋へと向かうエレベーターの扉が開いて中へと押し込まれ、いよいよ葵が諦めかけた時だった。扉が閉まろうとする瞬間に、入れ違いに隣のエレベーターから出てきたのだろう人物の後ろ姿がちらりと覗き見えた。葵を囲む男たちのせいではっきりとは見えないが、同じ形の黒髪が二つ並んでいたのは見える。
「……ッテェ!」
「聖くん、爽、んんッ」
葵が口元を覆う手に歯を立てて叫べば、途端に新たな手が葵の口を覆い、ドア口に立っていた生徒が慌ててボタンが連打するが、扉が閉まりきるギリギリの瞬間、白い手が二つ、間に差し込まれたのが見えた。
「「葵先輩!?」」
そのままこじ開けられた扉から現れたのは、やはり聖と爽だった。どこかへ出掛ける所だったのだろう。キャリーバッグが投げ出されているのが見えて、トラブルに巻き込んでしまったことを後悔したくなるが、それでも今はとにかく二人に会えた安堵で胸がいっぱいになってしまう。
「アンタらかよ。また熱いコーヒーぶっかけられたいんですか?」
「ダメだよ聖。コーヒーじゃ全然足りないわ。直接殺る」
状況を見た二人の顔は葵が見たこともない程怒りで歪んでいた。それを見て多少なりともエレベーター内の生徒は動揺したようだったが、リーダー格のピアスの生徒は聖と爽の睨みを受けても動じずに、ニタリと嫌な笑いを浮かべている。
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