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act.4哀婉ドール<11>

* * * * * * 部屋へと連れ込んだ葵は今、爽の腕の中でひくひくとすすり泣きを続けている。その正面に陣取った聖の手には、葵がさっきまで身に付けていたギンガムチェックのシャツがあった。 脱がせる時抵抗されたものの、その理由が聖に怯えているわけではなく、腕に巻かれた包帯を見られたくなくて拒んでいるだけなのだと分かったから、なだめながらもこうして完全にシャツを取り上げてしまったのだ。 観念した様子の葵は爽の膝の上で、自分の体、特に腕を隠すように丸まっているが、涙は一向に止まらない。どうやら本気で包帯を気にしているらしい。そこまでされると何故そんな場所に怪我をしたのか理由を知りたくなるが、きっと聞いてしまえば余計に泣かせることは明らかだった。 「先輩、ほら、可愛いボタン付けてあげるから。泣き止んで?」 「……それ、嬉しいか?」 爽が訝しげな目を向けてくるが、このぐらいしか思いつかないのだから仕方がない。何も聖はあの生徒達と同じように葵を裸に剥いて襲おうなんて思っているわけではなく、無理やり脱がされた痕跡が残るシャツをなんとかしてやりたかっただけだ。 聖が持ち出したのは、ソーイングセットと、アンティークのボタンが目一杯詰まった缶。親がデザイナーで自身もモデルという仕事柄、ファッションには幼い頃から慣れ親しんでいた。簡単な縫い物なら造作なくこなせるし、自分の好きなように既製品をリメイクするのが好きで海外の蚤の市でボタンを集めるのも趣味だった。こんな所でそれが役立つとはさすがに思いもしなかったのだが。 「あ、これは?ロンドンで買ったやつ」 缶をあさって取り出したのは、ガラス製のボタン。晴れた日の青空のように澄んだブルーをしたそれは、ちょうどシャツ全てのボタンを付け替えられるぐらいの数があったはずだ。 「……キレイ」 「でしょ?じゃ、これにしましょ」 睫毛の先を涙で濡らしたままの葵も、聖の指先で光るボタンを見てそう言ってくれる。これで決まりだ。早速聖は、一つひとつ丁寧にボタンをシャツへと縫い付ける作業を始めた。 ひとつ目のボタンを縫い付け終えた頃には葵も落ち着いて、聖の手元を興味深そうにジッと見つめてくるようになった。だから聖も葵へ事の顛末を探るために声を掛ける。
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