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act.4哀婉ドール<12>

「で、葵先輩。なんで一人で居たの?」 「連休中に寮に残ってる奴なんて、大抵ロクなもんじゃないんすから気をつけないと」 自分たちも寮に残っている組なのだが、爽はそれを棚に上げている。でも聖も同感だ。部活動や、実家との距離の問題でこの連休中は寮に留まると決めているだけの生徒も居るが、大抵は家庭環境が良くなかったり、補習に引っかかっている生徒ばかり。葵が無防備にふらつくには危険だ。 「みゃーちゃん送りに来て。寮で待ってるって約束したけど、でも、分かんない問題あったの」 「……うん、それで?」 まるで子供のように拙い説明は、まだ葵が混乱の最中に居ることを如実に示していた。聖は言葉で、そして爽は葵の頬に伝う涙を拭って、先を促してやる。 「先生に聞きに行ったら……その」 「え、ちょっと待って。先生って?そいつとも何かあったの?」 言い淀んだ葵の顔に怯えが見え隠れしたから聖は慌てて口を挟んだ。生徒だけでなく、教師にまで狙われているとはさすがに考えつかなかった。でも葵も事情を理解しきれていないらしい。爽に体を預けながら返答をする葵の表情はどこかぼんやりとしている。 「分かんない…ボタン、外してきて、それでなんだかこわくて、逃げてきちゃった……先生、怒ってるかな」 「もう、どんだけ危なっかしいの先輩は。逃げていいんすよ、正解です」 教師に襲われた事実を本能的に危険だと認識したらしいが、頭では処理しきれていないらしい。普段は聖を口が悪いと諌める爽も、さすがに葵を咎めずにはいられなかったようだ。 爽の膝の上で体を丸めている葵は、幼さは強いものの、雪のように白い肌も、淡い金糸のような髪も、蜂蜜色の瞳も、全てが魅力的で艶っぽい。双子を一瞬で恋に落とした程強い引力を持った容姿をしているというのに、その自覚がないのはとてつもなく危険だ。周りが過保護になる理由も分かる気がする。 「でね、ボタン留めるの忘れてて、寮に戻ってきたら……」 「「あぁ、なるほどね」」 葵が言葉を続けなくとも、事情がようやく理解出来た。この魅力的な上半身を見せびらかせてしまったら、花の蜜に群がる虫のように野蛮な男共が集まってくるのも無理はない。 ただでさえ飢えた男子校で葵のような存在は貴重だ。非公式に撮られた葵の写真が写真部の仕切りで売買されている事実を、聖と爽は一ヶ月の学園生活で十分に知ってしまった。それを買った生徒が何に使っているかなんてわざわざ聞かなくても分かってしまう。要はそういう欲の対象として見られているのだ。
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