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act.4哀婉ドール<13>

「葵先輩はもうちょっと自覚しないと」 そこが魅力でもあるのだが、もし二人がたまたまあの場を通りかからなかったら。想像するだけで寒気がする。けれど、返ってきたのは心底悲しげな呟き。 「……うん。あんなに、嫌われてるなんて思わなかった」 「え?嫌われてる?」 「どういうこと先輩?」 思わず爽と一度顔を見合わせ尋ねれば、泣き止んだと言うのにまた葵の瞳に涙が溜まり始めてしまう。 「だって……嫌いだから、するんでしょ?」 「えーっとさ、葵先輩。一応確認するけど、何されると思ったんですか?」 「だから、ぶったり、蹴ったり、とか?」 震える声で告げられたのは明らかな思い違い。ああして連れ去られた先で葵はただのリンチにでも遭うつもりだったのだろう。どうやら想像以上にこの先輩はお子様らしい。 「ダメだよ、これは。可愛いけどダメ。危なすぎる」 「誰、こんな風に育てたのは」 爽の言葉で浮かぶのは、いつも睨みを利かせている京介。そして歓迎会で出会った葵の兄代わりだという冬耶の存在だ。幼い頃から葵を知っているはずの彼等がどうして防御するための最低限の知識を与えてこなかったのか、理解に苦しむ。 二人のやりとりが分からないのか、こてんと首を傾げる仕草すら可愛くて堪らない存在。今は上半身を脱がせてしまっているから尚更扇情的に見えてしまう。聖の弟も、大人しく葵を抱えているのが限界に近付いてきたのか、顔を赤くして苦しげな表情を浮かべている。 「はい、終わり。どう?」 「すごくキレイ。ありがとう聖くん」 弟を助けてやるべく、手早く残りのボタンを付けてやり葵へと広げて見せれば、ようやくいつもの微笑みが返ってきた。けれどシャツを着せてやる前に確認したいことがある。 「ねぇ、葵先輩。どこも触られてないですか?」 「ん?触られるって?手とか足は掴まれたよ」 聖の質問の意図すら分かっていない様子の葵は、単に拘束のために触れられたことを教えてくる。だが聞きたいのはもっと違うこと。身を乗り出した聖は、露わになっている胸の突起をツンとつついてみる。 「……んッ」 「ココとか、触られてない?」 「ちょ、聖。さすがにやめろって今は」 ピクリと体を跳ねさせた葵をかばうように抱きしめたのは爽だった。確かに爽の言う通り、このまま葵に手を出すような非人道的な真似をするつもりはない。だが、もしあの男達や教師が葵に触れていたとあれば、タダでは済まさないと、そう思っただけだ。 「そんなとこ、触られてない」 「そ、良かった」 顔を赤くして首を横に振る葵に満足して、聖はようやくシャツを羽織らせてやる。きっと触られていたと回答されたら、今すぐにこの部屋を飛び出して輩の手を切り落としに行ってしまったかもしれない。 「こえーよ聖。落ち着けって」 「大丈夫、今こらえてるから」 さすが双子というべきか。爽には聖が何を考えていたか分かってしまったらしい。引いた顔をする爽を安心させるように微笑めば、疑わしげな視線だけが返ってくる。

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