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act.4哀婉ドール<15>
* * * * * *
戸惑う頬を掴んで上向かせ、唇の形をなぞるように舌を這わせれば、誘うようにそれが開かれる。迷わず舌を腔内へと侵入させると、またひく、と葵の肩が跳ねた。
「爽、あと何秒待てばいい?」
堪え性のない兄からはむくれた声が聞こえるが、あの時”秒”どころではないキスに及んでいたのを覚えていないのだろうか。少なくともそれ以下の長さで終えるつもりはなかった。ただもっと深く貪る前に葵に確認しなければならないことがある。
「葵先輩、こういうの嫌?」
葵の手は爽のシャツを掴んでは来るが、押し返しては来ない。頬もほんのりとピンクに上気しているが、そこに怯えは見えない。嫌ではないと思いたいが、襲われた直後なのだ。無理やり押し進めるような真似はしたくなかった。
問われた葵はまだ睫毛の先に涙の雫を付けたまま、瞳を揺らし、そして首を横に振ってきた。
「はずかし、けど……甘えたい」
はにかんだように瞼を伏せて告げられた言葉。爽にすがってくる手にもキュッと力が込められ、本当に甘えるような仕草をとられる。
────なに、この可愛い生き物。
聖も同感だったようで堪らないと言わんばかりに葵を後ろから抱きしめて、こめかみやうなじにキスを落としまくり始めた。
「どうしようもないくらい可愛いね、葵先輩は」
キスを甘える行為だと認識している所も、聖の戯れのようなキスにいちいちくすぐったそうに身を捩る所も。何もかもが可愛くて仕方ない。
「じゃあ先輩、もうちょっとしましょっか」
「……ん」
頷いたのを合図に、もう一度唇を重ねてみる。想像以上に柔らかかった葵の唇は触れるだけで溶けてしまいそうなほど熱を持ち始めていた。これぐらいで熱くなられては先が思いやられてしまう。
ぷっくりとした下唇を啄めばまるでノックをされたようにまた唇が開いてくれる。その行動はきっと誰かにこうしてキスを仕込まれたのだと予感させて嫉妬が芽生えてくるが、今それを追及するべきではないだろう。
するりと舌を潜り込ませれば、唇以上に熱い腔内はそれだけで驚くほど心地良い。
「ッ…ん…ふぁ」
ちゅっと葵の小さな舌を吸ってやると漏れ聞こえてくる吐息も、爽の耳をじわじわと侵してくる。更に舌が溶けてしまうほど絡め合わせてぐちゃぐちゃにかき乱したい衝動にかられた。
腔内を突く度に溢れてくる唾液も蜜のように甘い。叶うならもうずっとこれを味わっていたいと思うほど。
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