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act.4哀婉ドール<19>
* * * * * *
アンティークレンガが積まれた長い塀が途切れた先に学園の正門がある。幼稚舎と初等部は駅に近い敷地にあるが、中等部と高等部は寮のスペースがある分、より広い奥まった場所に存在しているのだ。
葵と都古が門の中へと消えてもう随分経つというのに、冬耶は未だに外界と学園との境目に腰をおろしながら思い出に浸っていた。
中等部に上がり寮生活を始めた冬耶を恋しがって、よくこの場所まで葵がやってきていた。京介はつまらなそうな顔をしてはいたけれど、必ずいつも葵に付き添ってやっていた。
「……懐かしいな」
敷地内を内部で繋げる門は人の行き来が多く、人目を気にする葵との待ち合わせには不向きだった。だからこの門へと冬耶に会いたくてやってくる可愛い弟達たちのために、授業が終わってすぐにここを訪れるのは冬耶にとっても日課になっていた。そして毎回先に家に帰るようなだめていた時のことを思い出して冬耶は思わず口元を緩めてしまう。
冬耶も可能な限りで共に家から通学をするよう努めていたが、初等部からその存在を注目され、中等部入学と同時に生徒会役員へと異例の抜擢をされてしまっていては学園の基本ルールである寮生活を無下にするわけにもいかない。
どうしても葵が泣いて寂しがる時は、遥を代わりに付き添わせて帰らせたこともしばしば。
葵のために傍に居るべきだと京介には怒られていたが、冬耶が学園の中心部にすすんで所属したのは他の誰でもない、葵を思っての行動だ。
今でこそ天真爛漫な印象の強い葵だが、当時京介以外の同級生とはまともに口を聞けなかったし、集団生活に全く馴染めていなかった。そんな存在は当然教師からも生徒からも糾弾の対象となる。
葵を真の意味で守るためにはただ争うだけでなく、もっと内側からの懐柔が必要だと、そう判断したから冬耶は自らが学園の中心人物へと登りつめる道を選んだ。
その作戦は功を奏して、冬耶が大事にする存在だからと、あからさまに葵をないがしろにする風潮は収まってくれた。そして葵も周囲の態度が和らぐにつれて、本来の自分を少しずつ出せるようになってきた。今では葵自身が学園にとっては無くてはならない存在にまで成長した。
このまま葵が何事もなく学園生活を送り、卒業できるよう、祈りを込めるように冬耶が目を伏せた時だった。
「……西名先輩?」
控えめに掛けられた声には覚えがあった。目を開けば、やはりそこにはスケッチブックを胸に抱えた生徒が少し離れた場所に立ちすくんでいた。
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