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act.4哀婉ドール<27>
だが、戻ってきた先で葵は案の定ワンピースを膝上に置いたままベッドに座り込んでいる。一応シャツのボタンが二つだけ外されているのだから、葵なりに一度は櫻のために着ようと葛藤してくれたのだろう。そういう健気な所が愛しくてたまらない。
「着替えさせてほしかったの?」
「……こういう格好、あんまり好きじゃ、なくて」
「したことあるんだ?」
まるで経験のあるような口ぶりに当然突っ込みを入れれば、葵は失言に気づいたようで俯いてしまう。誰にさせられたのかは知らないが、葵の容姿を考えれば経験があってもおかしくはないだろう。そもそも、男子である葵が”好き”ではないのが普通なのだが、申し訳無さそうな表情をされるとぞくぞくと背筋が震えてくる。
「葵ちゃんに着てほしくて準備したんだよ。これ着てくれたらいっぱい優しくしてあげる」
下を向いた葵の顎に指をかけ強制的に上向かせ、そう囁く。苛めた後愛でてやると、それだけで蕩けそうなほど幸せな顔を見せることは知っていた。葵が櫻に優しく接せられるのを望んでいることももちろん承知の上だ。
「向こうで待ってるから。着るか着ないか決めて出ておいで」
あくまで無理やり、ではない。葵に選択権を与えてやる。そうして選ばれる答えが何となく分かってしまっているからだ。
寝室の扉を閉めてリビングで期待を抱きながら待っていると、しばらくしてゆっくりと扉から葵が顔を出してきた。
「……櫻、先輩」
「おいで、葵ちゃん。いい子だね」
扉の隙間からちらりと白い布地が見えて、櫻の予感が当たったことが分かった。顔を赤くしてなかなか姿を現さない所もそれを示している。数度手招いてやれば、ぱたぱたと走り寄ってきた。
「後ろ留められなかった?」
「……はい」
恥ずかしくてなるべく櫻の視界に入りたくないのだろう。ぎゅっと櫻にしがみついてきた葵の背中側のチャックがぱっくりと開いたままになっているのが見えて問えば、控えめな頷きが返ってきた。
剥き出しの白い背中にすぐにでも口付けたくなるが、脱がせる時のお楽しみにしておこう。ここで強引に事を進めても、ただでさえぎりぎりのラインで羞恥を堪えている様子の葵が泣き出す可能性がある。
「うん、やっぱり可愛い」
ファスナーを閉めてリボンを結び直した後、引っ付いてくる葵の肩を掴んで距離を置けばようやく葵の全身を拝む事が出来た。派手さはないデザインだが、それが余計に可憐な雰囲気を演出している。ただ難点をあげるとすると、珍しく葵がむくれたような表情をしていること。
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