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act.4哀婉ドール<36>

「水族館でね、大きい水槽見てジッとしてる葵ちゃん、なんかその時の顔に見えたんだ。病院寄ってから来たって聞いたし、具合悪かっただけならいいんだけどさ」 「……病院?」 「そ、京介っちから連れてくから遅れてくって急に当日連絡あったんだ。あぁ、都古くん知らなかった?」 携帯を持たない都古が逐一葵の情報を知る術はない。頷く代わりに視線を窓の外へと戻せば、七瀬からは小さく”ごめん”とだけ告げられた。いつもの騒がしい様子とは違って大人しい七瀬は本当に葵の事が心配らしい。 だがそんな七瀬が都古に倣って中庭へと視線を下ろすなり、棘のある声を上げた。 「……うわぁ、あの人」 七瀬の視線を辿れば、中庭の一際大きな桜の木の下に二人の生徒の影が見える。一人は昨日都古に喧嘩を売ってきた同級生だ。だから七瀬もてっきり彼のことを言っているのかと思えば、どうやらもう一人の人物を凝視している。 「やっぱ噂本当だったんだ」 「誰?」 「高山さんのファン。あの人、ちょっとヤバイ家の出っぽくてさ、ドラッグ仕入れてヤりまくってるらしいよ。高山さんとヤれないから他の人で憂さ晴らししてるんだって」 確かに木陰の二人はただ会話しているだけとは思えない密着具合に見える。でも都古からすれば、どうでもいい情報だ。むしろあのピアスを付けた彼が性欲を発散出来たのなら、自分や葵に興味を抱かなくなって助かる。 「なに他人事っぽい顔してんの」 「え?」 「高山さんに可愛がられてる葵ちゃんのこと妬んでるから、警戒したほうがいいと思うよ。あの人の良い話、マジで聞かないから」 学園一の情報通を名乗る七瀬のいう話なら信憑性は高いのだろう。他人の情事など見たくもないが、都古はもう一度中庭へと視線を戻した。 ピアスの生徒に伸し掛かられ、木の幹に押し付けられている生徒は遠目から見ても170センチには満たない身長に思える。小柄なほうだろう。髪は茶色、瞳も大きい。都古はちっとも可愛いとは感じないが、それは葵にしか興味が湧かないからで、世間一般ではそういう部類に入るのだとは理解出来る。

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