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act.4哀婉ドール<37>
「退学に出来ないのかなぁああいうの」
「誰の話?」
七瀬の言葉に相槌を打つように不意に第三者の声が聞こえてきて、都古と七瀬は同時に背後を振り返った。するとそこにはついさっき名前が出たばかりの奈央がにこにことこちらを見つめて来ている。私服だというのにドレスシャツにグレンチェックのパンツという佇まいは学園の王子の名を裏切らない。
「あぁ、高山さんは見ないほうがいいと思うよ。免疫ないでしょ、どうせ」
「え、何が?何の話?」
「ほらね、葵ちゃんと同じ人種なの、この人」
後輩に若干小馬鹿にされるような口をきかれても奈央は怒るどころか、不思議そうに微笑むだけ。葵と同じ、という言い回しは都古にも何となく共感できる気がした。要はウブなのだろう。
「ね、高山さんってさ、葵ちゃんとチューしたいとかエッチしたいとか思う?」
「なっ、え、何?」
「葵ちゃんだと”エッチって何?”から始まるからこのぐらいが面白いや。ね、都古くん」
問われても都古は何も答えない。七瀬にからかわれて顔を真っ赤にして慌てふためく奈央を哀れだと思うが、参戦しようとも庇おうとも思わない。どうか巻き込まないで欲しい。
けれど、七瀬が奈央をけしかけるようなことを言い始めるからさすがに黙ってはいられなくなる。
「でもそっか、高山さんは葵ちゃんとチューもまだかぁ。葵ちゃん、チューは挨拶だと思ってるから別にそのぐらいはサクッといけちゃうよ?」
「させんな」
思わず七瀬のネクタイを掴んで止めようとするが、すばしっこい七瀬は奈央の背中に隠れてケラケラと笑い始めた。
「すんな」
「しないよ。安心して、烏山くん」
「……ホント?」
怒る都古を奈央がなだめてくるが、イマイチ信用が出来ない。葵に無理に手を出すような人物には見えないが、葵に好意を抱いているのは感じ取れるからだ。
「っていうか高山さん、なんでこんなとこいるの?ここ二年の階じゃん」
威嚇する都古を見てからかうのにも飽きたのか、七瀬はそもそも奈央がここに現れた事を疑問視し始めた。補習しか行われていない他学年のフロアに訪れる理由が確かに不明だ。
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