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act.4哀婉ドール<41>
「ひッ…ん」
ジッと金属の擦れる音がしたかと思えば、ひんやりとした指先に布越しではなく直接、背筋を撫でられる。そこでようやく背中のファスナーが開けられたのだと知らされた。
「ほんと敏感だね。まだ何にもしてないのに」
弧を描いた背を見て、また櫻に笑われてしまう。くすぐったがりは小さい頃から治らないのだから仕方ない。
「脱がすのもったいないけど……次、これにしよ?」
「あ、じゃあ着替えます」
抵抗するよりは素直に頷いたほうが早く終わる。だから指し示された水色のワンピースを受け取ろうと手を伸ばしたというのに、櫻はにこにこと微笑むだけ。ちっとも渡してくれない。
「あの……?」
「着替えさせてあげるって言ったよね。さ、脱ごう」
「いえ、だめです。櫻先輩、一回外に……」
普段なら目の前で着替えることには何の抵抗も抱かない。けれど、まだ両手首に包帯を巻いている状態なのだから、着替え終えるまで櫻には外で待っていてほしかった。
でも葵のお願いは、櫻の眉をひそめさせるだけ。
「歓迎会の時も嫌がったよね、僕の前で脱ぐの。なんで?怖い?」
櫻が怖いわけではない。否定するように首を振りかけて、そしてふと思う。怖いと言うのはある意味正しいかもしれないと、そう思ったからだ。櫻自身ではなく、この傷がバレて嫌われるのが怖い。
「気持ち悪いから、って言ってたけどさ……葵ちゃん、怪我してるんだよね?」
そこで櫻は一旦言葉を切り、キスで乱れた葵の前髪を直してくれる。
「葵ちゃんは怪我してる人を見て気持ち悪いって思うの?」
「そうじゃ、ないです。そんなこと、思わない」
「じゃあ僕がそう思いそうな人間に見えるってこと?」
「ちがっ……櫻先輩はそんな人じゃ、ない」
反論する言葉が他に浮かばない。確かに葵が櫻を拒絶した理由をそう受け取られてもおかしくない。でも本当にそんなつもりなどなかった。言いたいことがうまく言葉にならない歯がゆさは、幼い頃声を失った時期を思い起こさせて自然と涙が溢れてくる。
「じゃあさ……僕も見せるから、葵ちゃんも見せて。それでおあいこ」
「櫻先輩を見る、って?」
シャツのボタンを外し始めた櫻を見て、もしかして櫻もこのワンピースを着だすのだろうか。そんな見当違いなことを考えてしまった葵だが、櫻はボタンを全て外し終えると動きを止めた。
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