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act.4哀婉ドール<42>

どこか外国の血が入っているという櫻の肌は、ただ白いだけではなくほんのりとピンクが差している。はだけたシャツの隙間からは手と同じく傷一つなく美しい上半身が現れた。 けれど、櫻が体を反転させて肩からするりとシャツを滑り落とすと、普段隠されている背中に赤く爛れた筋が一本刻まれているのが見えた。痛々しい傷に何と声を発したらいいか分からなくなる。 「昔の傷痕。これを毎日見てきたんだから、並大抵のものじゃどうも思わないよ」 「あの……ごめ、なさい」 きっと櫻が誰にも見せずに隠していたはずの肌。それを自分のせいで晒させてしまった。後悔してもしたりない。 葵はまた涙を頬に伝わせてしまうけれど、振り返った櫻は怒るどころかいつも以上に優しい顔をしている。涙を滲ませる目元に口付けてくれる仕草もただ葵を甘やかすように温かい。 「謝らないで。おあいこだって言ったでしょ?ねぇ……見ていい?」 ここまでされてはもう拒否など出来るはずがない。観念して両腕を差し出せば、櫻はそっと袖口のボタンを外し、そして現れた包帯をゆっくりと解いていく。それでもその瞬間は、直視がしづらくて葵はつい顔を伏せてしまった。 「これ、自分で?」 治りかけたとはいえ、うっすらと残った歯型は否定しようがない。櫻の問いにこくりと頷けば、慰めるようにそっと傷をなぞられる。 「どうして噛んじゃったの?」 「……小さい頃から、で」 「そう。癖なの?」 “癖”と表現するにはあまりにもタチが悪いものだという自覚はある。もう一度小さく頷けば、櫻は葵の体を包み込んでくれた。 「辛いの、ココ噛んで我慢してるんだ?」 櫻はそう言って葵を抱き締める腕に力を込めながら、傷跡に唇を這わせてきた。舌でなぞるのではなく、まるでその部分と口付けするように薄い肌を啄まれていく。 自分の穢れた部分が、美を具現化したような櫻に触れられていく感覚は葵の身体を背徳感で震わせる。 「痛いの苦手でしょ?」 「でも、頭ぐちゃぐちゃになって…何も、考えられなくなっちゃうの」 「それって、ココ噛まないとダメ?違うことで気を紛らわせるのもアリじゃない?」 櫻の言う”違うこと”が分からなくて葵が首を傾げれば、櫻は磨かれた爪の先でツンと葵の唇を突いてきた。

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