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act.4哀婉ドール<43>*

「例えばさ、噛みたい、って思ったらキスするとか」 「なん、で?」 「だってキスしたら噛めないし、気持ちいいし。良いことしかないでしょ」 “ほら”と言って、櫻が今度は自身の唇で葵の唇を柔らかく食んできた。そんな解決方法など考えたこともなかった。戸惑う葵を、櫻はそっと押し倒してくる。 柔らかなカーペットに体が沈むと、その上に櫻が覆い被さってきた。 「こんな可愛い傷のせいで拒絶されたのかと思うとイヤになる。僕の愛を甘く見ないで」 そう言って不敵に微笑んだ櫻は葵が逃げられないよう両頬を手で包み込むと深く深く唇を重ねてきた。今度は戯れに啄むものじゃない。葵に感情を叩きつけるように舌が強く葵の腔内を侵してくる。 「ん…んッ、あ……ぅ」 静かな試着室の中で、吐息とともにどうしても我慢できずに漏れる自分の声と、櫻の舌が動く度にくちゅりと溢れる水音。それが恥ずかしくてたまらないのに、とろとろと内側から溶けていく感覚は正常な思考さえも奪う。 「ほら、段々怖くなくなってきた。……ね?」 問われて、確かに、と思わせられる。頷けばまた褒めるようにキスが与えられた。 互いの舌が絡まると、櫻からは”オレンジの味がする”と笑われる。きっとジェラートの味なのだろうが、指摘されると更にカッと体が熱を持っていくのが分かった。 「初めからこうすれば良かった」 「はじめ、から?」 ようやくキスから解放されたのは、葵の首筋にまで混ざりあった唾液が溢れ始めた頃だった。 「うん。葵ちゃんは優しくされるの好きだもんね。始業式の日にこうしてたら、もっと早く先に進めてたかな?」 濡れた肌を拭いながら櫻が思い出させてくるのは、あの日のキス。確かに葵にとって”お仕置き”だと言われて与えられたキスは苦しいものだった。でも今はただ胸焼けがするほど甘ったるい。キスの合間の息継ぎが下手な葵のために、新しい空気を取り込む隙も作ってくれた。 「先……?」 「そう、先へ。だって、西名とも猫ちゃんとも、進んでるんでしょう?二人ばっかりずるい」 「えッ…あ」 首筋を啄まれるのに気を取られ、櫻の手がスカートの裾から忍び込んでくるのに気が付けなかった。膝上まであるソックスをなぞり、更にその上へと滑る指先の目的地を本能的に察してしまう。

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