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act.4哀婉ドール<48>*

「もっと我慢させたいけど、飛んじゃったら困るし……。このぐらいにしとこっか」 最後にぺろりと膨らんだ突起を舐め上げた櫻は、顔を上げ、そして今度は涙とも唾液とも分からないもので濡れきった葵の頬に口付けてくる。 「よく頑張ったね。えらいよ、葵ちゃん」 褒めるように頬、目元、そして唇に柔らかなキスを落としてくる櫻の言葉に、胸がじんわりと熱くなる。どうしてこんな行為に浸らせられたのか。理不尽だと思うのに、普段厳しい櫻に褒められると反射的に嬉しいと、そう思ってしまう。 「じゃあいい子に出来た葵ちゃんにはご褒美あげようね」 「……ん」 葵が素直に頷くと、櫻は再び体を下へとずらしていく。葵が指を絡ませたせいで乱れた髪を再び耳に掛ける動作を見て、もしかして、と予測した時には遅かった。 すっかり蕩けきって解放を待ち望んでいた葵の熱はしばらくぶりに櫻の紅い唇に囚われた。櫻の手は根元に添えられているだけで戒めの役目は果たしていない。それに、もう片方の手は葵の抵抗を予測し、太ももを押さえつけてくる。 「あッ、んぅー!」 されるがまま、熱くぬめった口内に導かれ、そして促すように吸い上げられれば堰き止められることのない熱は呆気なく放たれた。 ハァハァと肩で息をしながら櫻を見やると、ぼやけた視界でも彼が何かを嚥下するのが見える。葵が出したものを飲み込んでしまったのだろう。 「や…いや、だ…ごめ、なさい」 「ごちそうさま、葵ちゃん。もうすっごく可愛かった」 高潔な先輩を自分が汚してしまった。その背徳感と羞恥で謝罪を口にした葵の気持ちとは裏腹に、櫻はこれ以上ないくらい嬉しそうに笑ってみせる。でもただワンピースを着用して喜んでもらったことと、これとは度合いが違い過ぎる。さすがに櫻の笑顔を見ても簡単には気が晴れそうもない。 「言ったとおり、”噛みたい”なんて気は紛れそうでしょう?」 確かにこの行為の始まりはそんなやりとりだった気がする。でも提案されたのは”キス”だけだったはずだ。こうして巧みな先輩にいつも翻弄され、泣かされている気がする。 清潔そうなハンカチに濡れた箇所を拭かれ簡単に後始末をされる間、あまりの恥ずかしさに声も発せず、ただ赤い顔を隠すように俯く事しかできなかった。 「本当はもっと遊びたいけど、ここではさすがに、ね。会計してくるからそのままで待ってて」 結局試着などしなかったというのに、櫻はそう言い残して試着室を出ていってしまった。扉が閉まる音が聞こえるとようやく葵も気だるい体をのろのろと起き上がらせる。

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