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act.4哀婉ドール<53>

* * * * * * あれだけ早く、と急かされて辿り着いた撮影スタジオには、肝心のカメラマンが到着せず、ただ空虚な時間が過ぎていた。当然双子の機嫌は最高に悪い。 「二人共、もうすぐいらっしゃるから、その顔どうにかしなさい」 携帯を片手に現れた双子の母リエは、だらけた姿勢でスタジオ内の椅子に腰掛ける息子たちを見かねて叱りつける。撮影ではモデルである二人が丁重に扱われることがあっても、ここまでカメラマンのスケジュールに大きく左右させられることは今まで無かった。それを我慢しろと押し付けてくる母に双子の顔はますます歪む。 「一体どんだけの人なの?そのカメラマンって」 聖がリエに問えば、呆れたと言わんばかりの表情で手元のタブレットを操作して画面を見せてきた。そこには白地の画面にエメラルドグリーンの文字で”K”と大きく描かれているだけ。どうやらサイトの入口らしい。隣の爽も画面を覗き込んできたのを合図に、アルファベットをタップすればサイトのメインページが開かれた。 そこにはただ、様々な人物の写真が並べられているだけ。カメラマン本人の情報は何も記載されていない。それに、映し出されている人物の中には二人が憧れを抱くような海外の有名モデルも点在していたが、ほとんどが恐らく無名の素人らしき写真が多い。けれど、そのどれもが溜息が出るほど美しい背景や小物で彩られ目が離せなくなる。 「綺麗でしょう?今はカメラの仕事受けてないそうだけど、相談したら特別にって受けて下さったの。だから失礼のないようにね」 結局リエからは具体的なカメラマンの情報は何一つもたらされていない。もう少し情報をくれと聖が声を出そうとした時だった。 「遅れてごめんね、リエさん」 スタジオ内に柔らかくも凛と澄んだ声が響き、聖はタブレットから顔を上げた。スタジオの入口には黒髪の華奢な男性がこちらに手を振っている。 「馨さん!いいの、こちらが無理言ったんだから」 「リエさんの頼みなら断れないからね」 すぐに彼の元へ駆け寄った母に対し、”馨”と呼ばれた人物からもリエへと近づき甘く微笑んでみせた。その笑顔は撮影者よりも被写体になるほうがずっと向いていると思わせるほど優美だ。 そして馨が身に纏う高貴な雰囲気は、彼の後から着いてきたスーツ姿の男性と、そしてガタイの良い二名の黒服の存在でより強調させられている。どう考えても秘書かマネージャーと、そしてボディーガードなのだろう。今まで沢山のカメラマンを見てきたが、さすがに自身に護衛を付けている人間など初めて見た。一体何者なのだろうか。

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