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act.4哀婉ドール<54>

「あぁ、君たちが聖くんと爽くん、だね。随分待たせてしまってごめんね」 「「いえ」」 柔らかい口調とは裏腹に、どこか有無を言わせぬ圧倒的な存在感がある馨を前に、散々ぶつけてやろうと思っていた遅刻への悪態は飲み込まざるを得なかった。けれど、早速リエと撮影の段取りを確認する馨にはつい強い視線を送ってしまう。 するとそれに気が付いた馨が聖の目を見返し、そして歩み寄ってきた。 「怒ってる?それとも緊張してる?」 「……緊張はしてません。ただ、結構待たされたから疲れてます」 「おい聖」 恐れのない発言に驚いた様子の爽から肘で突かれるが、このぐらいは許容範囲だろう。一人になるのを不安がっていた葵を置いてまで来てやったのだ。怒りたくもなる。でも失礼な発言に気を悪くするでもなく、馨は手を伸ばして聖の頬に触れてきた。 「あぁ……すごく綺麗な顔してる。うん、いいね」 聖の顔の造りを確かめるように観察した馨はそう言って満足気に微笑んだ。 「でも少し、雰囲気が違う。当たり前か。別々の人格だものね」 馨は聖の次に爽を見やると、二人の僅かな違いに気が付き、より愉快そうに口元を歪ませてきた。母親からは二人セットであることをずっと求められていたからか、”別人格”であることを真正面から当然だと宣言されると嫌な気はしない。 「リエさん。シンメトリーが求めるイメージだと言っていたけど、少しいじってもいい?二人それぞれの良さを活かしたい」 「え?えぇ、馨さんにお任せするわ」 リエが馨の要望に頷くなり、彼はすぐさま待機していたヘアメイクに具体的な指示を出し始めた。そこには先程までの柔らかな空気はない。リエが用意した衣装と、双子が持ち込んだ小道具から組み合わせを選ぶのも馨自身が行う。 「聖くんは外見が少しおっとりして見えるけど、私に噛み付いてくるぐらいだ。中身はきっと爽くんよりも男性的だね」 そう言って聖が渡されたのは白地の紺のピンストライブの入ったスーツ。そして爽には同じラインでは有るが色味は真逆のウィメンズのセットアップを手渡した。ゆったりしている素材だから華奢な体格の双子に着こなせないこともないが、馨の意図が分からない。 女性物を着せられるとあって爽は少しだけ嫌そうな顔をしたものの、撮影はあくまで仕事だと割り切っているのか、特に文句は言わずに素直に袖を通していった。 髪型も、聖はより男性的に見えるよう黒髪はオールバックに固められ、反対に爽の髪はウェーブを付けられてより柔らかな印象を与えるようふんわりとセットされていく。

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