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act.4哀婉ドール<55>
「こういうのどう?リエさん。君の服は硬軟がはっきりしているけれど、二人で何から何まで揃えるとどうしても硬すぎる印象が強くなるから。良さを出してあげたくて」
試しに数枚撮影したデータをチェックしながら、馨がリエに語りかけた。確かに聖の目から見てもマンネリ化していた撮影イメージが良い風に塗り替えられている。リエ自身も気に入り、そのまま進行することが決定された。
本格的な撮影がスタートすると、スタジオ内の空気が一変する。聖と爽もブランドのコンセプトでもあるアンニュイな表情を浮かべ、馨もカメラを構え始めると翡翠色の瞳が不思議な輝きを放ち始める。
「やっぱり君たちは違いを出していった方が良い。もっと魅力的になるよ」
レンズ越しに双子を見つめる馨はまるで内面までも見透かしているようだ。リエが徹底的に嫌がったはずの双子の”差”を出すことを推奨してくる。
そうしてこまめに心をくすぐってくる言葉を投げかけてくる馨のおかげで、撮影が終わる頃には感じていたはずの彼への怒りは双子の中からすっかりと消え失せていた。
それどころか撮影後に同じテーブルを囲んで雑談すら始めるほど打ち解けてしまった。双子を諭すような口ぶりではあるが子供扱いはせず対等に会話をしてくれる所もそうだが、何故か彼の笑顔はどこかで見たことのある甘さを秘めているから余計に懐いてしまう。
「え、馨さん子持ちなんですか?いくつ?」
「君たちと同じぐらいだよ」
「「まじで?」」
コーヒーを啜りながら告げられた事実は双子を大いに驚かせる。どう見ても二十代にしか見えない馨が子持ちであることだけでも驚愕なのに、それが高校生だとあればにわかには信じがたい。
「馨さんの子供だったらめっちゃ美形っしょ」
「そうだね、とても可愛いよ」
自分の容姿を自覚しているのか、爽の言葉には謙遜もせずにさらりと認めてみせる。彼の血を引いているのなら、さぞ整った顔をしているのだろう。否定するほうが嫌味に聞こえるのだから馨の回答も無理はない。
「そういえば、もうアイちゃんの写真撮らないの?」
「「アイちゃん?」」
「あぁ、僕の子のモデル名」
口を挟んできたリエのおかげで、馨の子の名前を知る。名前からして”娘”なのだろう。当然のように被写体としているらしい。
「しばらく撮れなかったんだけどね。もうそろそろ、再開するよ」
「へぇそうなの?楽しみだわ」
「今準備段階なんだ。大きくなったけど、昔と変わらず可愛いから。私も今から楽しみだよ。あぁ……昔の写真、見るかい?」
リエとの話についていけない双子を気遣って馨が傍に置いていた携帯を手に取り始めた。どうやら”アイ”の写真を見せてくれるらしい。だが、馨が写真を探し出して見せようとした時、今までジッと黙って傍に控えていた秘書らしき青年が声を掛けてきた。
「社長、そろそろお時間です」
「ん?少しぐらい大丈夫でしょう?……分かったよ穂高、また今度にする」
遠慮がちではあるが有無を言わさぬ視線を投げかけてくる、穂高と呼ばれた青年に気圧されて馨はつまらなそうに携帯を仕舞ってみせた。
「またね、聖くん、爽くん」
そう言ってにこりと微笑む馨を見送った後の双子が揃って行うのはただ一つ。リエから渡されたままになっていたタブレットを開いて彼の娘の写真を探すこと。
だが、どれだけ写真を遡っても彼のホームページにはそれらしき写真は掲載されていなかった。インターネット上を漁ってみてもそれは同じく。
「どういうこと?」
「さぁ?」
聖と爽は顔を見合わせて首をひねるが、そこに隠された秘密などどうしても分かりそうもなかった。
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