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act.4哀婉ドール<68>

* * * * * * ようやく長かった補習が終わり寮へと飛んで帰った都古が合鍵で葵の部屋を開ければ、出た時には確かに居たはずの存在が綺麗さっぱり消えてしまっていた。 「あれ?葵ちゃんは?」 何故か着いてきた七瀬も顔を覗かせて葵の不在を不審がる。そして遠慮なしにずかずかと部屋に上がり込んでテーブルに置かれた一枚のメモ紙を都古に見せてきた。 「あーあ、またやられちゃったね都古くん」 「なに?」 内容を見れば、そこには櫻からのメッセージが残されていた。葵を連れて行ったどころか、家に送る役目まで請け負うつもりらしい。櫻が始業式の日に葵を泣かせた記憶が蘇ってきて、一気に頭に血がのぼる。 「落ち着いて。ほら、番号書いてあるから掛けてみようよ」 今初めてこの場に七瀬が居てよかったと感じた。携帯を所持していない都古が櫻に連絡を取るためには寮の入り口にある公衆電話まで向かわなければならない。そんな時間さえ惜しかった。 けれど、都古の期待に反し早速電話をし始めた七瀬は長く続くコール音に顔をしかめてみせる。 「……番号書いてるくせに出ないってどういうこと?ムカつくね。どうする?」 ムカつくのは同感だ。今日は珍しく七瀬と気が合う。いつもはうるさい子ザルくらいの印象だったが、せめてうるさいクラスメイトに格上げしてあげてもいいかもしれない。 「探す」 「いや、それは無茶でしょ。家に送るって言ってるんだし、葵ちゃん家で待ってたら?」 七瀬の言うことはもっともだが、ただ待つだけでは気が収まらない。宣言して葵を連れ去ったのだから、きちんと葵を帰してくれる気はあるのだろう。でもその間にまた手を出さないとも限らない。 それに今の葵は不安定だ。母親と弟の墓参りをしてきたせいで、過去の記憶への扉がより開きやすい状態でもある。何かをきっかけに葵が乱れる可能性も十分考えられた。 とにかくこの部屋に居ても仕方がない。都古は寮を出ることに決めて葵の部屋を飛び出した。七瀬までまた走ってついてくるのは追い払いたかったが、ここで揉める時間すら勿体無い。 寮を出て駅へと向かう正門まで一気に駆け抜ければ、その先のガードレールに見覚えのある人物が腰掛けているのが分かった。向こうもこちらに気が付いたのか片手を上げてくる。 陽の光を浴びて銀色に輝く髪と、同じ色に光るピアスに彩られた人物。冬耶だった。

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