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act.4哀婉ドール<69>

「あれー?お兄さんじゃん。なんで?」 「七瀬ちゃん、歓迎会ぶり。元気だった?」 いつのまにか都古を抜かして冬耶の元に辿り着いた七瀬の髪を、彼はくしゃくしゃにかき乱して朗らかに笑ってみせた。大柄な冬耶が、葵よりも小さな七瀬にそうしていると、七瀬が更に小さく見える。 「七瀬ちゃんも今日補習だったんだ」 「そうなの、もう超疲れた。お兄さんの権力で補習廃止にして」 「ハハ、勘弁してよ。俺はもうここの生徒じゃないんだから」 葵の初めての友人になった七瀬に冬耶は至極甘い。可愛いと言わんばかりによしよしと七瀬の頭を撫で回している。でも生憎都古はこんな光景を見たいわけじゃない。 「冬耶さん、アオ、いない」 「ん?大丈夫だよ、月島が一緒に居るから安心しな」 七瀬との交流を遮れば、冬耶は動揺もせずにあっさりとそう返してきた。櫻が葵を連れて行ったことは知っていたらしい。ではなぜこの場に来ているのか。葵を迎えに来たんではなかったのか。 「みや君が迷子にならないようにね」 困惑する都古のために、冬耶はそう説明してくれた。葵が居ないことを知った都古が慌てることを見越して顔を出したのだという。本当にこの人は誰彼構わず面倒を見たがる。 「で、みや君にお説教もしなきゃならないし」 「なんで?補習、受けた」 「うん、それはなっちから聞いた」 きちんと補習をこなしたことを主張すれば、冬耶もそれに同意してくれた。奈央は本当に冬耶に連絡を入れていたらしい。では他に怒られる要素は何だろう。 都古が頭を捻っていると、冬耶は七瀬に向き合ってこう声を掛けた。 「七瀬ちゃんごめん。ちょっとみや君と大事な話あるから」 「仲間外れ?葵ちゃんの話?」 「違うよ。俺に怒られてるとこ見られるの、みや君嫌がるだろ?」 むくれた七瀬を冬耶はそう言ってなだめてみせる。さすがに子供の扱い方は上手だ。七瀬はつまらなそうにはするものの、都古をちらりと見やり、そして大人しく手を振って門を出て行った。七瀬の家はここから徒歩圏内の位置にある。だから寮生活を特別に免除されているのだ。 「さて、と。おいで、みや君」 七瀬の姿が完全に見えなくなると、冬耶は都古を路肩に停めた車へと招き入れた。誘われるまま大人しく助手席に座ると、エンジンを掛けずに冬耶は本題に入った。

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