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act.4哀婉ドール<70>
「学校来る前、あーちゃんとどこに行ってた?」
「……見てた?」
質問に質問で返事をすれば、冬耶は肩をすくめてとぼけてくる。だが、彼のことだからきっと都古と葵の後を追いかけて来ていたのだろう。家を出る前からそのつもりだったのかもしれない。それならあっさりと葵を家から送り出した違和感の説明がつく。
「アオには、知らないフリ、して」
「分かってる。それに前から知ってたよ?お母さんとシノブくんのお墓に行ってるってね」
「……どうして?」
確か葵は誰にも告げていないと言っていた。都古以外、誰にも。二人だけの秘密だと思っていた事が暴かれていると知って、残念なような、哀しいような気持ちにさせられる。
「あーちゃんがどうしてあのお墓見つけたか、知ってる?」
冬耶の問いに都古は首を横に振って答えた。偶然あの場所を知ったとは聞いていたが、その偶然の経緯までは教えてもらっていなかった。否、言われるまでは聞くつもりなど都古にはない。ただ黙って寄り添ってやるのが葵から求められている役割だからだ。
「プラネタリウムの館長、分かる?」
脈略もない次の質問には頷きを返した。分かるどころか、都古があのプラネタリウムを知ったのは冬耶の指示のおかげだ。
葵は一人で出掛けていると思い込んでいるが、この過保護な兄が葵を一人にする訳がない。今朝都古たちを見守っていたように、ずっと行き帰り着いていったのだという。そしてその役割を都古にも何度か任せてきた。だから都古はプラネタリウムに実際足を運んだこともある。
「あの館長の奥さんのお墓が同じ霊園にあるんだ。館長があーちゃんをあの場所に連れて行ったのがきっかけ。そこで見つけちゃったんだ。まさか二人の墓が作られてるなんて俺も父さん達も知らなかったから、防ぎようがなかった」
冬耶はいつものように笑っているが、それがどこか苦しげに見えたのは都古の錯覚ではないだろう。寛容なように見えて、冬耶はきっとあらゆることを耐えている。短気で感情的な京介と違い表に出さない冬耶のほうが危ないと、都古は思う。
「……俺が、付き添っちゃ、ダメ?だから、説教?」
「あぁいや、そうじゃない。むしろみや君が一緒に居てくれるようになって感謝してるよ。安心もした」
冬耶はこうした場面では嘘は付かない。けれど、自分ではなく都古が選ばれたことにはきっと悔しさや悲しみを抱いている気はした。
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