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act.4哀婉ドール<71>

「俺が言いたかったのは、今、二人の秘密を大事にしてあげられる状況じゃない、ってこと」 「どういう、意味?」 「あーちゃんのお父さんが帰ってきた」 どうも今日の冬耶の言い回しは都古に優しくない。なんとなくは理解出来るものの、いつもの順を追った丁寧な説明とは言いがたかった。でも冬耶自身も珍しく動揺している証のように思えて、都古は黙って先を促す。 「あーちゃんを取り戻したがってる。俺たちにもそう宣言してきた。それに、多分あーちゃん本人にも藤沢側の人間が接触していると思う。あーちゃんを傷つけるようなやり方で」 「傷、つける?」 冬耶の声に珍しく負の感情が込められ始めた。ハンドルに置かれた拳にも固く力が入るのが見える。 「さっき月島から連絡があったんだ。目を離した隙に若い男があーちゃんを泣かせて行ったらしい。俺も昨日あーちゃんを待たせている間に同じことをやられた。多分同一人物だ」 葵の様子がおかしい原因が見えてきた気がした。でも葵を欲しがっているというのなら、なぜ葵を泣かせるだけで立ち去るか。そのまま連れ去る、という手段は取ればそれで済むはずだ。 「内面から切り崩そうとしているんだと思う。その証拠に、あーちゃんは今、”家に帰りたくない”、そう言って月島に泣きついているらしいから」 「……不信感、抱かせてる?」 「多分ね。俺たちと一緒に居たくない、そう思わせたらすんなり引き取れるとでも考えているんだろ。あの人らしい」 都古は葵の実父とは当然会ったことはないが、実母と同様にロクな人間ではないことは伝え聞いていた。狂っていると、京介が表現していたのも知っている。 「そんな状況だからさ、みや君、協力して。あーちゃんを失いたくないんだ」 それは都古ももちろん同じ気持ちだ。でも誰よりも賢く、強い冬耶ですら太刀打ち出来ない相手に、都古はどうすれば良いのだろう。 「俺たちを信じるのが怖くなったあーちゃんが頼ることが出来るのは、きっと今遥かみや君だ。でも遥は日本にいない。となると……」 「俺、だけ?」 「そう。あーちゃんの事情を知っていて、でも家族ではない。そんな存在はまだ二人だけだから」 そう言って冬耶は今度都古の頭をくしゃりと撫でてきた。 葵と親しくしている存在は他にも沢山居る。都古がどれだけ嫉妬しても足りないほどに。けれど、確かに葵の抱えているものを知っている存在は少ない。中等部からの親友を名乗る七瀬達ですら僅かしか伝えられていないという。 「なぁみや君。複雑な気持ちになるのは分かるけどさ、こんな時あーちゃんが頼れる人、いっぱい居てくれたほうが良いって思わない?」 冬耶の手をなんだか振り払えずにそのまま甘受していた都古は、大人しくその言葉の意味を考えてみた。

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