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act.4哀婉ドール<72>

「俺はさ、あーちゃんが素直に助けを求められる人が増えて欲しいんだ。今あーちゃんの周りに居る人は皆、あーちゃんのこと助けてくれるとも思う。みや君はどう思う?」 きっと都古が葵をとりまく人物に反発してばかり居るのを見透かしているのだろう。もしかしたら奈央や京介から情報が伝わっているのかもしれない。 「出来ればみや君も皆と仲良くしてほしいけど、それは無理に求めないよ。でもあーちゃんがみや君と信頼関係を結べたように、皆とも絆を作るのを見守ってあげてほしい。それがあーちゃんを守ることに必ず繋がるから」 冬耶の言いたいことは頭では理解は出来る。 葵が西名家だけではなく、安全だと思える場所が沢山あったほうがいい。それが空間ではなく、誰かの腕の中でも良いだろう。そうして心が癒やされれば、葵は壊れずに済む。けれど、そのまま都古以外の誰かともっと深い関係になってしまったら。それも葵を失うことに他ならない。 実父に連れ戻されて物理的に葵を失うのも、精神的に葵を奪われるのも、どちらも都古には耐え難いものだ。 「アオしか、居ない」 「そうだな。それはよく知ってる。だからみや君にこんなお願いをするのは酷いよな」 都古の頭に置かれた手にグッと力が込められた。 「でもごめん、みや君。俺が世界一大事なのはあーちゃんなんだ。それは覚えておいて」 さっきよりも強く頭を撫でられながらの台詞には、普段見せることのない冬耶の兄ではない感情が色濃く表れていた。 「よし、じゃあ一旦帰ろうか」 「……え?副会長の、とこ」 「今行ってもきっと拒絶されるだけだろうから。まずは北条と月島のお手並み拝見、な?あそこならセキュリティにまず間違いはないだろうし」 この人は余裕があるのだか無いのだか分からない。けれど一つだけ分かるのは、彼の愛情が凄まじく深いということ。 冬耶はよく葵が選んだ相手なら誰でも良いなんて宣言しているけれど、こういう姿を見ると、この人は自分を選ぶこと以外許せないのではないかと思わされる。誰よりも自分の愛が深いことに確信を持っているのだ。 それが無自覚にせよ、自覚があるにせよ、厄介だ。 自分がまず闘う相手は、京介でも櫻でもなく、この人かもしれない。さっきまでの雰囲気とは打って変わって口笛を吹きながら車を飛ばす冬耶の横顔を見ながら、都古はうんざりとした気持ちを押し隠しもせずに眉をひそめ、小さく舌打ちを重ねた。

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