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act.4哀婉ドール<78>
* * * * * *
葵が忍と手を繋いで庭園に向かってしまった後ろ姿を見ながら、櫻はまたティーカップを口元に運ぶ。説教を受けている間葵の面倒を見て欲しいと移動中に送ったメールを、彼はきちんと理解し、そしてごく自然に葵を連れ出してくれた。
「もしかして、さくちゃんも好きなの?あの子の事」
「え?どうして?」
恵美に指摘されて尋ね返せば、彼女からは悪戯っぽい微笑みが返された。
「だって、あの子を見る目が普段のさくちゃんと全然違うわ」
「そう?自分じゃ分からないけど」
「そもそも、さくちゃんが誰かと寄り添ってやってくるなんて、有り得ないもの。世の中の人間全て汚物だと思ってるでしょう?さくちゃんは」
酷い言われようである。けれど、あながち間違いではない。確かに大抵の人間とは言葉を交わすのさえ遠慮したいというのに、手を繋いで歩くなんて絶対に御免だ。でも葵は別だ。触れたくて触れたくて仕方がない。
「でもまだどちらが良いか選んでもらえていないの?おかしいわね、忍もさくちゃんも癖はあるけどいい男なのに」
「癖があるは余計」
「本当のことじゃない。これでも、小さい頃から知ってるさくちゃんが恋をしてるなんて、喜んでるのよ」
そう言って笑う恵美は本当に嬉しそうだった。
恵美は忍と八つ歳が離れている。彼女は年齢だけでも十分大人びていたけれど、内面も早くから成熟していた。だから櫻がどんなに酷い態度を取ろうとも、初めて出会った日からまるで櫻の姉でもあるかのように柔らかに接してくれている。今では櫻も、彼女には随分と心を許せるようになった。
「けれど困ってもいるわ。忍だけじゃなくて、さくちゃんも男の子が好きになっちゃったんだもの。それも私のせいかしら?」
恵美はおっとりとした口調を崩さず、上品に首を傾げてみせる。その拍子にぱさりと豊かな髪がワンピースの肩口を滑り落ちた。
そう、彼女は忍の姉だ。柔らかに見えても、忍と同じ色をした瞳の奥は鋭い光を放っている。
「僕は忍とは違って男性を恋愛対象にしてるわけじゃないよ」
「でもさくちゃんは自分と同等の容姿じゃないと許せないでしょ。世の中の大半の女の子はさくちゃんに敵わないもの」
さすが恵美は櫻の性格をよく理解している。内面ももちろん大事だが、容姿が基準値を越えなければまず内面に触れようとも思えなかった。
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