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act.4哀婉ドール<85>
京介は冬耶から話を聞いてすぐにでも葵を迎えに行こうとした。だが、葵を落ち着かせる時間が必要だと主張する冬耶に止められ、忍の家の住所を教えてもらうことは出来なかった。
それでも何か行動を起こさずにはいられなくて、こうして連絡の取れなかった陽平の元に足を運んだのだった。
「葵のことは怒ってやるなよ。一番辛いのはあの子なんだ」
さすがは父親だ。京介の表情を見て、その怒りがどこに向いているのか察したようだった。
頭では分かっている。分かっているが、自分が注いできた愛情を疑われた気がして、哀しみと怒りが入り混じって頭がぐちゃぐちゃにかき乱されている。コントロールがきかなかった。
「それに、葵はこの状況を何一つ知らない。混乱してるんだ、きっと」
「……分かってる」
「納得してないだろ。お前は昔から顔に出るから」
言葉で取り繕っても無駄のようだ。京介が気持ちを鎮められていないのを見咎めた陽平に少しきつめに頭を小突かれた。
「そうやって感情の振り幅がでかいから藤沢さんとの面会にも連れて行かなかったんだ。短気二人揃ったら話し合いにならないだろうが」
陽平は京介が馨との話し合いを後で知らされたことを根に持っているのも見透かしていたらしい。でも、京介だけでなく自分自身も”短気”と表現するから反論する気は失せた。いつでも朗らかな兄は陽平のこういう部分を受け継いだのだと、こんな時に感じる。
「だからな、京介。落ち着かないのは分かるが、お前は帰れ」
「は?別に頭から喧嘩腰で行くつもりはねぇよ」
陽平が京介を起こさずに家を出たことを考えれば、同席させるつもりがないことは予測出来ていた。けれど実際に来てしまえば陽平は諦めて話し合い場に連れて行ってくれると期待していたのだ。
まさかこうもあっさりと追い返そうとされるとは思わなかった。
「権利と金の話になるだろうから。大人同士で話をさせてくれ」
「もうガキじゃねぇ。葵を引き取った時とは違う」
怒気を込めた声で言い返せば、陽平は聞き分けのない子供を見るような目で京介を見返してきた。でも京介も引きたくはない。
葵を西名家に招き入れる時、陽平が藤沢家と話を付けたことは知っている。あの時文字通り子供だった京介がその場に居なかったことも、どんな話をしたか聞けなかったことも、仕方ないとは思えるが、今はもう物の道理も十分に分かる年齢だ。
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