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act.4哀婉ドール<90>

「きっと来年、会長さんみたいにはなれません」 葵は歓迎会の時忍と交わした会話を思い出したようだった。次の生徒会長は順当に行けば唯一の二年である葵しか考えられない。でも、こうして泣きべそをかいて忍に甘えているようでは到底務まらない、そう思ったのだろう。 「葵は葵なりの会長を目指せばいいさ。それとも生徒会自体が重荷か?」 「重荷なんてそんな……ただ、早く大人にならなきゃって。でもどうしたらいいか、分からないです」 こうして素直に弱音を吐いてくれるだけで随分と心を開いてくれた気がする。 忍の知る限り、以前の葵は生徒会なんて学園の中心グループに属するような存在ではなかった。容姿だけは今と変わらず目立ってはいたけれど、いつも京介の影に隠れて極力誰とも接しないよう息を潜めているように見えた。 忍も葵のことはとびきり可愛いとは認識していたし、隙あらば一晩誘いをかけようか。そんなことさえ思っていたのだが、あまりにも周りのガードが固すぎて諦めざるを得なかったのだ。 そんな葵が生徒会に招き入れられたのは、他の誰でもない、当時の会長だった冬耶の差し金だった。選挙を通さずに異例の抜擢を受けた葵に当初は反発する声も多かったのだが、今では学園をまとめる生徒会の一員として生徒たちからも認められている。それは葵自身が勝ち取った評価だ。 「葵、初めて会話した日の事を、覚えているか?」 「……はい」 唐突な問いに、葵は少し驚きながらも頷きを返してきた。 「あの日、お前に絡んでいた奴らと同じく、俺も葵は生徒会としての仕事をこなすのに値するか疑問を感じていた。ただ仲の良い西名さんや相良さんと離れたくない、そんな気持ちで生徒会に入ったのだと、そう思っていた」 葵を傷つけることになるかもしれない。そんな恐れも抱きながら、忍は当時の感情を正直に葵に打ち明けた。 そうした見方をしていたのは、何も忍だけではない。学業の成績は上位に居たものの、虚弱な体質も人見知りも学園中が知っていた。それまでの生徒会の歴史を覆す存在になるのではと危惧する声が上がるのは無理もなかった。 今となっては、冬耶や遥が葵をそんな立場に追い込んだ理由も察しはつく。葵を成長させるため。その前提は明らかだが、何よりも二人は葵がきちんと役員としての責務を果たせるのだと信じていたのだろう。 そして葵自身も二人の期待に応えようと必死だったはずだ。

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