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act.4哀婉ドール<95>
葵だけでなく、今こうして役員である奈央と食事をしていることすら、普通の一年生では有り得ないことだ。その証拠に、遠慮がちではあるが、双子を睨む視線も感じられる。
いっそ同じ役員になってしまえば、こうしたやっかみは減るかもしれない。成績が申し分ないことは知っているし、来年度唯一生徒会役員として実質内定している葵とも親しい。双子が来年度の生徒会役員として名乗りをあげてくれるなら、幾分安心が出来るような気がした。
「あの、生徒会って部活と掛け持ちっていけます?」
「部活?何か入ってたっけ?」
今度は爽から問われ、奈央は双子がどこの部活にも属していなかったという記憶が間違いだったかと思い尋ね返した。だが爽は首を横に振る。
「例えばの話で。ほら、俺らモデルやってるし、思いっきり暇ってわけでもないじゃん?」
奈央への返答というよりも、なぜか聖への釈明のように爽はそう付け加えてきた。それを受け止める聖の表情はどこか不満げだ。
「今は部活と兼任している人は居ないけど、過去には居たよ。部長と会長同時にこなしていた人も居たし、本人次第じゃないかな」
双子の微妙な空気を払うように奈央が返事をしてやれば、爽はホッとした表情になった。
恐らく爽はどこかの部活に入ることも検討しているのだろう。そしてそれを聖は面白くないと感じているようだった。いつでもセットのように行動する双子は、歓迎会の合間も喧嘩をしていたし、やはり別人格故のすれ違いはどうしても生じてしまうらしい。
「今生徒会は人手が足りないから、各クラスの学級委員や有志に手を貸してもらっている状態なんだ。もし本当に生徒会に入りたいって思ってくれてるなら、まずは仕事の体験してみる?」
奈央がそう提案してやれば、双子はすぐに元気よく頷いてきた。奈央としてもやる気のある一年生が二人も確保出来るならありがたい。
業務連絡を行うために双子と連絡先を交換すれば、視界の端で未里が食堂から立ち去るのが見えた。
「ごめん、もしかしたら福田くんが突っかかるかもしれない」
奈央からすれば双子に対してやっかむ理由はないのだが、それでも双子と携帯を突き合わせたタイミングで未里が勢い良く飛び出していったのだから、どう考えても双子と親しくするのが面白くなかったのだろう。
未里は奈央の前では”いい子”で通しているが、本来は気性が激しいらしい。七瀬にも、未里を葵に近づけるなと歓迎会の最終日に忠告を受けていた。未里が奈央の周囲の人間に、嫉妬のあまり危害を加えるとは思いたくなかったが、警戒しても損はないはずだ。
でも双子は未里のことなど気にせず、奈央の番号とアドレスを登録し、そして自分たちの情報も奈央の携帯に勝手に入力し終えてしまった。
「葵先輩も携帯持たないかなぁ」
「ね、そしたら休みの日でも声が聞けるのに」
葵への好意を真っ直ぐに口にできる二人が羨ましい。そのまま葵とのデートをどう楽しむか、話し合いを始めた双子を見ながら、奈央は不穏な予感を押し隠し食事を再開させたのだった。
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