460 / 1593
act.4哀婉ドール<98>
* * * * * *
待ち合わせ場所に指定された駅前に着いた京介が宮岡へと連絡を入れれば、今度は繁華街の中心通りにあるビルを指定された。しかもそのビルはどうやら表と裏、両方から入れる通路があるらしい。裏通りに面したほうから入るよう指示をされ、ますます疑惑が高まるが、ここまで来てしまっては後に引けない。
宮岡が信用できる人間かどうか確証は得られていないが、頼ったのは自分のほうだ。だから京介は指示通りに裏からビルへと足を踏み入れ、そして指定の階を訪れた。
そこは華美な装飾が施された中華料理屋。どう見ても大事な話をするのには適さないように思える。
「すみません、まどろっこしいことをして」
日本語が上手く話せない店員に通された個室には宮岡が一人、京介を待っていた。今日は休日だという宮岡は、病院で会った時よりもラフな服装をしている。
「どういうこと?」
元々この場所で食事をしていた、というのならば最初からこの店を指定すればいい。それをしなかった訳を知りたくて京介は宮岡の前の席に腰を下ろしながら、少しきつく問いかけた。
「もし君と二人で会話している所を見られたら、あまり宜しくないからね」
「なんで」
「だって、どう考えても打倒藤沢の会じゃない?私達」
「勝手に名前付けんなよ」
にこにこと笑う宮岡はやはりどこか変わっている。気が削がれた京介は、目の前に置かれた烏龍茶のピッチャーをグラスへと傾けて喉を潤し、もう一度宮岡を見やった。
「アンタ、付けられてんの?」
「多分ね、藤沢のことを嗅ぎ回っているのはバレているから。でも君も監視されててもおかしくないよ。気をつけたほうがいい」
「俺は別に付けられて困ることはねぇよ」
会話の内容の割にやはり宮岡は緊張感がない。テーブルに並んだ料理を頬張る手を止めること無く、京介に笑顔を向けてくる。
「目付けられたら消されるわけ?」
「人ひとり消すのはそう簡単なことじゃないよ。いくら藤沢が金持ちだからって、綺麗さっぱり跡形もなく、ってわけにはいかないからね。それに私には切り札があるから大丈夫」
「切り札?」
尋ね返せばようやく宮岡は箸を止めた。けれど京介の問いに答えるというよりは、京介の話を聞こうとする姿勢を整えた、というほうが正しい。
「何か、あったんだね?」
真っ直ぐに見据えてくる宮岡の表情には相変わらず笑みは携えられていたけれど、少しおどけたような今までの態度とは違い、真剣に京介に向き合おうという意思が読み取れた。
だから京介も、それに答えるべく、藤沢家からの接触の話を宮岡に聞かせた。
だが陽平と冬耶が馨と面会したことや、葵を欲しがっていると告げられたこと、そしてぬいぐるみを送りつけてきたことを話しても宮岡はさして驚く様子を見せなかった。
「まさか、知ってたのか?」
その態度に違和感を覚えて京介が問えば、宮岡は少し困ったような顔をして理由を告げてきた。
「内部に知り合いが居るんだ、実はね」
「誰?」
「その人の身が危なくなるから、内緒。まぁ君も知っている人だけど」
藤沢家周辺の知り合いなんて京介には覚えがない。だが宮岡は確実に知っている人物だという。気になるが、宮岡の態度は頑なでそれ以上の情報を与える気はなさそうだった。
ともだちにシェアしよう!