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act.4哀婉ドール<103>

「懐かしいなぁ、そうだよ。実力はあってもなかなか芽が出ないアーティストを集めて、オムニバスのヒーリングCDを作ろうと思ってね」 目黒は本当に懐かしそうに目を細めてCDのケースを開き、中からブックレットを取り出した。 「よく持っていたね。カメラマンのおかげで日本よりも海外で話題になったんだ。もう廃盤になっているし、国内で持っている人は少ないと思っていたよ」 饒舌な目黒は櫻が細かく聞かなくても情報を提供してくれる。櫻とこうして会話を出来る、ということが更に彼を舞い上がらせているのかもしれない。 「カメラマン?」 「そう、この子の父親だよ。彼も国外で活動することが多い人だったから」 「……父親」 どうやら櫻の期待以上に葵の情報が手に入ってしまった。同時に葵のトラウマの理由も察する。 父親が人形のような格好をさせていることは葵とのやりとりで予想はしていたが、まさかこうしてその姿を世に出した張本人が父親だとは思わなかった。 「この子は今どうしてるの?」 目黒から更に情報を引き出すために、櫻はあえて素知らぬフリをしてごく自然にジャケット写真に映る存在を指差した。 「あぁ、アイちゃん?どうしているだろう。そういえばどうなったか聞いたことがないな」 「アイ?」 「そう、”Ⅰ”。確か本名ではなかったと思うけど彼の父親がそう呼ばせていたよ」 目黒が葵の名前を覚えていないことに安堵しながら、もう一度写真の中の葵を見つめる。 真っ白な世界に溶けてしまいそうなほど儚い姿をした葵もまた、うっすらと微笑みを携えながら櫻を見つめ返している。まるで本当に造り物のようだが、どこか痛々しさを感じるのは、葵の取り乱した姿を見てしまったからなのだろうか。 「櫻君、アイちゃんが気になるのかい?」 櫻があまりに写真を凝視していたからか、目黒がようやく櫻の興味の理由を尋ねてきた。正直に答えるわけにもいかないし、目黒とそうした深い会話をしたくもない。何と答えるべきか櫻は言葉に詰まったが、お喋りな目黒はCDを櫻へと返しながら言葉を重ねてきた。

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