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act.4哀婉ドール<105>

* * * * * * 自宅や寮とは比較にならないほど大きな浴室は身の置き場に困る、ということを葵は知った。 夕食後、当たり前のように通された忍の寝室には専用のバスルームが付いていた。その造りは個室に付けられていると思えないほど贅沢なものだった。一部屋ずつ家として十分に暮らせるほど独立した機能を持たせているから、北条家の屋敷はこれほど大きいのかもしれない。葵はある意味納得してしまう。 あまり長居することが出来ず浴室を出れば、そこには見覚えのないシルクの寝間着が置かれていた。脱いだはずの衣服は忽然と消えている。 バスタオルが添えられているのだから、もしかしなくてもこれを着ろということなのだろう。人の家に突然泊まる経験など無かった葵はそこで初めて、泊まるにはこうした細かな部分でも忍に迷惑をかけてしまうのだと気が付いた。 質の良いシルクは肌に心地よいが、葵にとってはかなりサイズが大きい。上はまだボタンをきっちりと留めれば肩までずり落ちることはないが、問題は下だ。下着までは用意されていなかったから、ウエストの部分をしっかりと押さえていなければ大変なことになってしまう。 「もう上がったのか」 濡れた髪をフェイスタオルで覆いながらバスルームを出れば、一人掛けのアームチェアに座っていた忍が手にしていた本から驚いたように顔を上げた。 葵の先に入浴した彼はもうすっかり寝支度を整えている。葵と色違いのパジャマに薄手のガウンを羽織り読書している姿は葵の一つ上とは思えないほど大人びて見えた。 「遠慮しなくていいというのに」 ズボンがずり落ちそうであまり派手に動けない葵に焦れたのか、忍が椅子から立ち上がり葵の傍まで歩み寄ってくれる。濡れたままの髪に触れながら漏れた呟きは、慈しむような響きが含まれていてなんだかくすぐったさを感じてしまう。 「いつもこのぐらいです」 さすがに広すぎて落ち着かなかったとは言えなくてそう言い訳をすれば、忍からは疑わしげな視線が送られた。けれど、忍はそれ以上葵を追及せず、葵がさっきまで居たバスルームへと消えてしまった。 そしてすぐにまた現れた彼の手にはドライヤーが握られている。確かにそれが洗面台の上に置かれているのは見えたのだが、葵はその熱風が苦手で自分では上手く操れない。だから知らないフリをしていたのだ。

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