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act.4哀婉ドール<108>
* * * * * *
元々湯上がりで火照っていた葵の体は、しつこいぐらいに口付けを交わしたせいで更に熱くなっている。抱きしめていてもそれは布越しで伝わってきた。素直な体をもっと貪りたくなってしまう。
「おいで、葵」
「……ン」
ベッドへと運ぶために葵の体を抱きかかえれば、未だ忍の眼鏡を大切に持ちながら擦り寄ってきた。キスだけですっかり蕩けた様子の葵にはもう抵抗する力すらないのだろう。
だが、椅子から葵を浮かせれば急にぴくりと体を跳ねさせた。
「あ、待って」
その突然の抵抗の理由はすぐに分かる。するりと葵の脚から寝間着のズボンが滑り落ちたのだ。どうやら葵にはサイズが大きすぎたらしい。バスルームから出てきてからずっと、自分を抱き締めるようにウエストを押さえていた謎もようやく解けた。
丈の長い上着のお陰で腰回りはしっかりと隠されているが、それでも葵にとっては恥ずかしくて堪らないのだろう。真っ赤な顔をして忍を見つめてきた。
「あの、着させてください」
「どうせ寝ているうちに脱げるだろう。無意味だ」
葵の訴えをあっさりと退けベッドへと連行すれば、葵は観念したように忍の肩口に顔を押し付けてきた。せめて顔を隠して恥ずかしさをやり過ごしたいのだろう。でもそういう仕草こそが忍を煽るのだとちっとも学習しないようだ。
横抱きの姿勢に変える拍子に葵の爪先にかろうじて引っ掛かっていたスリッパが音を立てて落ちる。
「もう寝るんですか?宿題、もう少し見てほしくて」
「悪いな、明日見てやる」
お子様なりにこれからただベッドに入って眠るだけでは済まないことぐらいは予測しているのだろう。控えめながら抵抗してくるが、生憎忍は先程からぶかぶかのパジャマの胸元に咲く紅い鬱血痕が気になって仕方ない。
櫻からは葵を無理に脱がせないように、と忠告のメールが来ていたし、葵の嫌がることはするつもりがない。でもこうして明らかに櫻が手を出した痕を見せつけられて落ち着いていられるほど冷静にもなりきれなかった。
「そこに置いていいですか?」
二人で眠るには十分な広さのベッドの中心へと葵を横たえらせれば、葵は手にした忍の眼鏡を示してベッドサイドのテーブルを見やる。
「終わるまで持っていろと言っただろう?」
そう告げてベッドに沈む葵に覆いかぶさるように手を付けば、焦ったように蜂蜜色の瞳が泳ぎ始めた。
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