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act.4哀婉ドール<109>*
「……葵」
「ん、っ…あ」
名を呼び、つい先程まで繋がっていた唇同士をもう一度触れ合わせる。今までキスはただセックスに至るまでの前戯の一つだと思っていたはずだったが、相手が葵というだけでどうしてこうも飽きないのだろう。
ただ忍を受け入れるだけで精一杯の葵は、決して技術的に巧みなわけではない。忍のなすがままだ。でもその受け入れようとする仕草が可愛らしい。
「ん……だめ、です」
「何故?」
「くすぐ、たいから」
キスを落としながら剥き出しの葵の内腿を指で辿れば、逃げるように脚がシーツの上をもがく。その脚にすら紅く啄まれた痕がいくつか刻まれていた。
「葵、せめてここは上書きさせてくれ」
ちっぽけな嫉妬だということは自覚している。でも他の男の痕跡を残した葵を抱きながら眠るほど寛容にはなれない。葵が嫌がるのならこれ以上脱がすつもりはなかったが、せめて見えている範囲の痕には触れておきたかった。
顔を赤くしたまま戸惑う葵の返事を待たず、忍は少しだけ体をずらし、ほっそりとした右脚をまずは掬いあげる。
「あ、の…なに、を」
これ以上パジャマの裾がめくりあがらないよう、葵は必死に不自由な手でシルクを押さえながら忍を見つめてきた。忍の眼鏡を傷付けないよう配慮するあまり、体を起き上がらせることも、逃げ出すことも出来ないらしい。
「ここを丹念に愛されたことは?」
ちゅっと音を立てて白い膝に口付けて問えば、葵は訳の分からぬまま首を横に振ってきた。
肉付きは良くないが、ふくらはぎや内腿は筋張ってはおらず不思議と柔らかな感触がする。その全てを啄んで紅く染め上げたい。そんな野望すら湧き上がらせる。
「ん……ふぁ…や、だ」
膝から脛、そして爪先への滑らかなラインに丁寧に唇を落としていけば、ただそれだけの刺激で葵の身体がシーツの上を跳ねた。
膝より上に唇を滑らせてしまうと、きっとそのまま裾をめくって秘められた箇所まで暴いてしまいたくなるだろう。だからあくまで戯れで済む範囲の場所を吸うだけに留める。
当然葵の脚は忍の手を振りほどこうとするが、派手な動きを取れないままでは大した抵抗にもならない。
「葵、足のサイズは?」
踵を支え、指先一つひとつにキスを贈っていると、その小ささが気になって思わずそんなことを尋ねてしまう。
「にじゅ……に」
「小さいな。靴を探すのは大変だろう?」
「あ、っ…しゃべんない、で」
濡れた爪先に吐息が掛かるだけでくすぐったいのだろう。くるりと指を丸めながら葵が訴えてくる。
でも止める気にはなれない。もっと苛めてやるたくなる。
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