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act.4哀婉ドール<114>

* * * * * * シンと静まった地下駐車場。平日はこの広いスペースに社員達や来客の車が無数に並ぶが、連休中、それもこの時間では全くと言っていいほど人気がない。 だが駐車場からビルの内部へと通じる扉の前に佇んでいれば、黒塗りのセダンが一台滑るように場内へとやってきた。 「あれ、待っててくれるなんて優しいね。使用人としての自覚が出てきた?」 車から降りて来た人物は意外な出迎えに驚いた素振りを見せながらも、挑発するような言葉を並べてくる。 「篠田さん、この車で今日はどちらに行かれたんですか?」 「藤沢の人間って言うのはどうやっても認めたくないんだね、秋吉さんは」 椿の”使用人”ではない、そう強調するように穂高が返せば、彼は目を細めた。そういう表情をすると確かに馨とよく似ている。だが例え彼が馨の血を引いていても、仕える気にはならなかった。 「それで、どちらへ?」 「俺の予定なんて興味ないんじゃない?それとも何か知ってて聞いてきてる?」 「この車の持ち主を調べられた形跡がありました。一体、何をしていたんですか?」 椿が勝手に乗り回している藤沢家の社用車の一つが、何故か情報の照会をされているようだと穂高に連絡があったのだ。 業者を経由しての調査だったようで依頼者はまだ突き止められていない。でも誰が椿のことを探ろうとしているのか。それは友人から先刻届いたメールを見れば大体察することは出来た。 「あぁ、あの子に見られちゃってたのか。油断した」 椿にも心当たりがあるらしい。言葉とは裏腹に面白そうに笑ってみせる所が憎らしかった。 「葵お坊ちゃまに接触するなと、そう社長は貴方に命じていたはずです」 「葵に?俺が接触?どこでそんな話になってるの?葵が言ってるわけ?」 車体に背を預けながら、椿はあくまでゆったりとした口調を崩さず、ジャケットの胸ポケットから取り出した煙草に火を付ける。カチリとライターに点火する音が静かな空間に響いた。 「お坊ちゃまが誰かに付け回されているようだと、西名の皆さんがそう感じていらっしゃる。貴方の仕業でしょう」 「あ、そう。月島の御曹司が西名に連絡入れたってことね。葵が言ったんじゃないんだ」 葵自ら椿からの接触を訴えたわけではない。それを知って椿はつまらなそうな表情を浮かべた。 彼が葵に異常な執着を示していることは穂高も察していたし、警戒もしていた。だが、馨の機嫌を損ねれば椿の立場が危うくなる。だからしばらく大人しくしていると思ったのだが、どうやら親に似てどこか狂った思考の持ち主らしい。

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