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act.4哀婉ドール<115>

「まぁそれもそうか。葵はちっとも俺のことを思い出さないし」 その言葉には憎しみが込められているように感じられる。椿が葵に何を求めているのかは定かではないが、少なくとも葵の記憶に残っていない事が彼の憎悪の原点なのだろう。 「で、どうするの?馨に告げ口でもする?あ、でもそれはもう西名が言ってるのかな」 「そうですね。先程陽平さんが旦那様に面会していたようですから、きっとそこでお坊ちゃまに接触する存在のことはお話になっているでしょう。そしてそれは、社長のせいだと、そう訴えられたはずです」 「あーあ、ってことは馨キレてる?」 「それはもう」 馨の父親であり、藤沢グループの総帥である人物に呼び出され、今頃馨は相当に苛立っているだろう。自分の身に覚えのないことで咎められ、葵を取り戻すのにふさわしいという評価からは遠のいてしまった。一刻でも早く自分の人形を手に入れたいと願う馨が憤慨するのも無理はない。 「でも良かったじゃん。これでしばらく馨への監視は更に強まる。そうしたら葵は安泰だ。秋吉さん、俺に感謝したら?」 椿の言う通り、これで葵が馨の手中に収まることは先延ばしになった。葵の幸せを祈る穂高にとって、それは確かに喜ばしい。けれど、馨は単純な人間ではない。自分の意のままにならないのなら壊してしまおう、そう極端な考えに振り切れる可能性もあった。椿のやり方はあまりに乱暴だ。 「秋吉さん、ねぇ、一緒に葵を救ってあげようよ。お姫様を魔の手から守る騎士みたいに」 穂高のきつい視線を物ともせず、椿は夢見がちな言葉を並べて誘いを掛けてきた。自分を騎士だと名乗る椿は葵を傷付けているという自覚は微塵もないようだ。 「葵お坊ちゃまを何から、救うつもりですか?」 「馨と、それから西名かな」 「……西名さん?」 椿が敵として認識していた思わぬ人物に、穂高は眉をひそめた。 「善人ぶってるくせに実際は金目的で葵飼ってるんだから、ロクな奴らじゃないだろ。最初からおかしいと思ったんだ。隣人ってだけで葵を引き取ろうとするなんて」 穂高が椿と出会ったのはごく最近のことだ。椿がどうして葵や西名家を知っているのか。椿はお喋りなくせにそこだけは語りたがらない。けれどどうやらかなりの誤解をしている、というのは今の発言で分かる。

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